超動く家にて / 宮内悠介
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宮内悠介を読もう、三作目は前作に続きお笑い系作品「超動く家にて」です。宮内さん待望の初「あとがき」によりますと、
これまで未収録であった短編やショートショートのうち、ネタに偏った作を集めた 16編
が収められています。
最初にちょっと真面目に「おバカ系ネタ」についての個人的意見を述べておきますと、宮内さんが「あとがき」で書いておられる、
「 処女作がシリアス過ぎて、このままでは、洒落や冗談の通じないやつだと思われてしまわないだろうかというのがバカ小説執筆のきっかけ 」
というのはどうなのかな~、って思いました。もちろん100%本気ではないんでしょうけど、そういう風に恣意的に笑いを取ろうとする作品は個人的にはあまり好みではない。
例えば同じように、真面目作品が主流で時々お笑い系作品を出す人に東野圭吾がいますが、やっぱりそこは関西人、あの頃ぼくらはアホでしたみたいなナチュラルボーン系お笑いはやっぱり文句なしに面白いです。
というわけでこの作品を通読してみますと皮肉なことにお笑い系ではない、シリアスでペーソスを主体とした「アニマとエーファ」が最高に素晴らしかった。あとは 面白くもあり、面白くもなし。玉石混交。
もちろんネタの好き好きがあって読む方それぞれに評価は違うと思います。
ということで以前レビューした「人工知能の見る夢は」に収録されていた「夜間飛行」を標準の☆3つ、「アニマとエーファ」を最高の☆五つ、ミステリの法則なんかにはあまり興味がないので「法則」を最低の☆1つとして各作品を採点してみます。
「トランジスタ技術の圧縮」 ☆☆☆
雑誌の広告部分を間引くと随分すっきりする、アルアル系ネタ。求道バトルにするのもアルアルだな。
「文学部のこと」 ☆☆
円城塔がもやしもんのパスティーシュやってるみたいだな、と思ってたらマジであとがきにその旨が書いてあってビックリした。
「アニマとエーファ」 ☆☆☆☆☆
希少言語で文章を自動生成するためにある爺さんが手作りしたAIの数奇な運命。素晴らしいの一言、宮内版近未来ピノキオかな。
「今日泥棒」 ☆
ネタは悪くないがオチが弱い。
「エターナル・レガシー」 ☆☆☆
囲碁AIに負けた棋士と大昔の8ビットコンピューターの奇妙な共同生活。棋士の彼女の「乗算もできない分際で」ってのが愉快。
「超動く家にて」 ☆☆☆
ネパールのマニのような円形の動く家での密室殺人事件。「そして誰もいなくなった」、「インシテミル」、「11人いる!」のチャンポンみたいな。萩尾望都様の名作をもちだしたところはよろしいが、出来としては中途半端。
「夜間飛行」 ☆☆☆
基準作。アイデア、オチがきっちりとしている。
「弥生の鯨」 ☆☆☆☆☆
これはよかったなあ。やっぱりまじめな方がいい作品書けるね、宮内さん。海女がメタンハイドレートを海中からとってくるというアイデアが秀逸で話の展開もスムーズ。
「法則」 ☆
ヴァン・ダインの20の法則と言われても、そう言うのに興味がないもんで、申し訳ない。
「ゲーマーズ・ゴースト」 ☆☆☆
スカタン系ボニー&クライド風の話は凄く面白いんだけど、わざわざSF風につけたオチがイマイチ。惜しい。
「犬か猫か?」 ☆☆☆
ぬいぐるみが犬なのか猫なのか議論するショートショート。シュレジンジャーの猫かい、と思ってたら最後に種明かしあり、ニヤリ。
「スモーク・オン・ザ・ウォーター」 ☆☆☆☆
ディープ・パープルとは何の関係もない、まじめなSF短編。脳腫瘍末期の父に隕石のペンダントをあげたら突然失踪した。そのあとの展開がホノボノ系でハッピーエンドな後味のよい作品。
「エラリー・クイーン数」 ☆
Wiki風の構成が物珍しいが、面白くはなかった。
「かぎ括弧のようなもの」 ☆
「クローム再襲撃」 ☆☆☆
その清水義範の十八番のパスティーシュをやってみました的な。村上春樹とギブソンをパクりまくり。「ジェイズ・バー」「やみくろ」「千葉市」あたりにニヤリ。
「星間野球」 ☆☆☆☆☆
宇宙ステーションで「帰還」をかけて二人の乗組員が野球盤で真剣勝負。お笑い系SFとして一番良かったと思う。
というわけで、合計46、平均2.87となりました。全体として星三つと言う感じだったので、大体あってますね。
さあ次は何を読もうか?
雑誌『トランジスタ技術』を「圧縮」する謎競技をめぐる「トランジスタ技術の圧縮」、ヴァン・ダインの二十則が支配する世界で殺人を企てる男の話「法則」など全16編。日本SF大賞、吉川英治文学新人賞、三島由紀夫賞受賞、直木・芥川両賞の候補になるなど活躍めざましい著者による初の自選短編集。(AMAZON)