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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

街とその不確かな壁 / 村上春樹

⭐︎⭐︎⭐︎

 

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2025年5月にfacebookに投稿

 

 昔ほど熱心なハルキストではなくなったので文庫化されてやっと読んだ。

 

 幻の「街と、その不確かな壁」、人気No.1の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の静のパートのリライトという情報は得ていたので楽しみにはしていた。

 

 まぁ村上春樹そのものである。これだけブレずに村上構文、村上小道具で浮世離れした世界を構築できるのはある意味尊敬に値する。ハルキストには堪らない、アンチにはナンヤコレカネカエセの物語がひたすら紡がれていくので、世界の終わりがすんなり受け入れられた人限定でお勧め。今回はエロの部分が抑えられているのも良い。

 

 極私的なことを言うと、自分がコロナ禍でひたすら疲弊する毎日を送っていた時期にこの人はひたすら家にこもってこんな妄想世界を構築していたのかと、微妙に反感を覚えないでもなかった。

 

なんとかしなくちゃ 星雲編 / 恩田陸

https://amzn.to/49qQYF2

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

私は恩田陸さんが大好物である。どこが好物かと言うと、「投げっぱなしジャーマン」とか「大風呂敷広げまくりのたたみ忘れ」とか称される彼女の悪癖である。

 


物凄いストーリー展開にしておいて突然何の前触れもなく終わる、あっちこっちに伏線をばら撒いて殆ど回収しない。まぁそれが彼女の醍醐味であり、昔出入りしていた読書サイトに絶えず燃料を投入し続けていただいた、大変ありがたい作家さんではあった。

 


そんな彼女も、もうあんた審査する側だろとツッコミたくなるような時期に、実に真面目な小説で直木賞をお取りになり、つまらんなぁと思っていた(をいをい。でしばらく遠ざかっていたのだが、先日本屋で文庫版新刊を見つけたので買ってみた。それがこれ、「なんとかしなくちゃ 星雲編」である。

 


ご自身で作中で述べられているように、恩田版朝のテレビ連続小説、或いは恩田版女の一生である。女性主人公の幼少期から大学卒業まで、細かいエピソードを実に丁寧に積み重ね、成長する様を活写していく。どのエピソードでもちゃんと問題は解決し、大風呂敷たたみ忘れの面影は微塵もない。

 


と思っていたのだが、最後の最後に壮大な広げっぱなしが待っていた。それも陸さんご自身がそれを作中で謝罪すると言うのだから、昔からのファンには実に気持ち良いカタルシスが得られたのであった。

 


ちなみに脇役ながら主人公より強烈なキャラを有する、歌子というパイセンが登場する。抱腹絶倒で面白く、続編での活躍が楽しみである。

 


久々のレビューで緊張したわ、ゲヘゲヘゲヘ!

 


『日常に潜む「キモチワルイ」や「モッタイナイ」を見逃さない主人公・梯結子は商人の家系に生まれた四人きょうだいの末っ子。幼いころからその天才的なひらめきと観察力と調達力で、次々に難題に挑む。混み合う砂場、プライドが傷付くお友達が出るお誕生会、不利な生徒会長選挙でのアピール――誰もが諦めた課題を「なんとかしなくちゃ。」の一心で解決する、新感覚エンタテインメント!(幼少期~大学生編)』

 

Baumgartner / Paul Auster

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⭐︎⭐︎

 

 昨年他界したポール・オースターの遺作小説である。大作「4321」で書き終えてなお創作意欲が衰えていなかったのはさすがオースターだが、これで終わることになるとは思ってはいなかっただろう。そこが惜しいというのが偽らざる読後感。

 

  柴田元幸先生は前作の後書きで「妻に先立たれた七十歳の男が過去と死を見つめながら生きる日々を綴ったひそやかな傑作」と褒めておられるが、、、

 

  敢えて言おう、こりゃ凡作だ、と。

 

  最初少しドタバタがあるが、それ以降は男やもめの回想が延々と続く。物語が少し動き出すのが全体の80%を過ぎてから。それでも新たなキャラは姿を現さずKindleは90%を過ぎる。で、唐突に物語は終わりを告げる。思わずこりゃ絶筆かと確認してしまったほどだ。

 

  少し面白いと思ったのは作中創作の「スタニスラフの狼」というウクライナ旅行記くらいかな。

 

  まぁ、最後まで付き合ったぞ、オースター先生、RIP!

黒牢城 / 米澤穂信

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 米澤穂信の小説は殆ど読んでいるが、彼にとって本格時代小説はおそらく初めてだと思う。にも関わらず完璧に時代小説の作法と文体を駆使しておられ本当に驚いた。

 

 彼の作品は謎解きにとどまらずそれを突き抜けた先にある何かを我々に提示してくれる。ベルーフシリーズなどがその最たるものだが、ここでも彼はそれをやってのけている。

 

 織田信長に叛旗を翻し最後は逃亡した荒木村重有岡城の戦いに題を取り、黒田官兵衛羊たちの沈黙レクター博士をやらせ、最後には宗教・哲学にまで踏み込んでクライマックスを迎える構成はお見事としか言いようがない。今更の直木賞受賞もむべなるかなである。

 

黒牢城 https://amzn.asia/d/dSCs8oh

犬とハモニカ / 江國香織

☆☆☆

  先日ブックオフから「ポイント切れるぞ使わないのかこの野郎」という有難いメールをいただきました。そういえば新型コロナが流行り出してから全く行ってなかったな。。。

  というわけで緊急事態宣言も明けたので既読本売りも兼ねて行ってまりました。で、ポイントで買ったのはやっぱり安心の江國香織さん。今回は川端康成文学賞受賞の表題作を含む短編集です。

 

 

外国人青年、少女、老婦人、大家族……。空港の到着ロビーで行き交う人々の、人生の一瞬の重なりを鮮やかに掬い取った川端賞受賞の表題作。恋人に別れを告げられ、妻が眠る家に帰った男性の心の変化をこぼさず描く「寝室」。“僕らは幸福だ”“いいわ”――夫婦間の小さなささくれをそっと見つめた「ピクニック」。わたしたちが生きる上で抱え続ける、あたたかい孤独に満ちた、六つの旅路。(AMAZON解説より) 

 

    六篇の短編からなりますが、著者が後書きで書いておられるように色々な大人の事情で今回は少し抑え気味かな、という印象を受けました。特に表題作なんかは、え、これ以外にいくらでも川端文学賞に相応しい作品を江國さんは書いておられるでしょ、と思うくらいあっさりとした空港群像劇でした。

 

  もちろん全体を通して江國さんらしさ、村上春樹にも匹敵する文章の巧さは健在なんですが、江國流の色気、狂気、無邪気な残酷さのような要素が今ひとつ感じられず、個人的にはやや物足りなかったです。

 

  そんな中でも、今も延々チミチミ亀よりのろく読み進めている「源氏物語」に題材を取った「夕顔」、陽光が眩しいポルトガルを舞台にしたゲイのカップルの旅行譚を鮮やかな筆捌きで描いた「アレンテージョ」が今までの江國さんの枠を一歩踏み出した面白い作品だったかな、と思いました。

 

  というわけで、レビューもいつもよりあっさり目になってしまいましたが、汲めども尽きぬ江國さんの作品を今後もぼちぼちと追いかけていきたいと思います。

  

偶然の聖地 / 宮内悠介

☆☆☆☆☆

  またまたひっさしぶりのレビューになります。「宮内悠介を読もう」シリーズ、今回は2019年の「偶然の聖地」です。おや、まだ続いていたのか!という声が聞こえてきますね。うん、前回の「あとは野となれ大和撫子」が6月23日、その前の「カブールの園」がその9ヶ月前、昨年9月ですからむべなるかな、ではあります。

 

  この三ヶ月、全く宮内悠介を読んでいなかったわけではなく、「ディレイ・イフェクト」があまりにつまらなかったので書く気をなくし(をいをい、この「偶然の聖地」はあまりにも長くて読む気をなくし、、、あ、やっぱり読んでなかったか。。。でですね、読み始めると実に面白かったんですよ、これが!今まで読んだ宮内の作品の中で最高にスリリングで最高に面白かったです。

 

 

小説という、旅に出る。 国、ジェンダーSNS――ボーダーなき時代に、鬼才・宮内悠介が届ける世界地図。本文に300を超える「註」がついた、最新長編小説。 秋のあとに訪れる短い春、旅春。それは、時空がかかる病である――。人間ではなく世界の不具合を治す“世界医”。密室で発見されたミイラ化遺体。カトマンズ日本食店のカツ丼の味。宇宙エレベーターを奏でる巨人。世界一つまらない街はどこか・・・・・・。オーディオ・コメンタリーのように親密な325個の注釈にガイドされながら楽しく巡る、宮内版“すばらしい世界旅行”。“偶然の旅行者”たちはイシュクト山を目指す。合い言葉は、「迷ったら右」!――大森望(書評家)(講談社BOOK倶楽部紹介ページより)

 

  というわけで、今はなき「In Pocket」という冊子に一回5ページずつ程度で2014-2018年の4年間延々と掲載され続け、In Pocketの廃刊が決まってようやく落とし前をつけた、という大長編であります。

 

  もともと「エッセイと小説の中間あたり」の作品を依頼され始まった連載だそうで、途中著者もそのことを忘れていたそうですが、兎にも角にもあまりにぶっ飛んでいるので注釈が必要だろうと、何と300超もの注釈をつけて2019年に単行本化されました。

 

  このエッセイ的なところと注釈が相まって、お得意の中央アジア、バックパッキング、コンピュータープログラミングへの思いのたけをぶち込んだ虚実ないまぜ具合がファンとしてはとても心地良いです。ほんと「In Pocket」が廃刊せず、だらだら延々続いていてほしかったと思うくらいです。

 

  内容を語るのは野暮というものですが、この世界はどこかの誰かがプログラミングしたもので、それが神であろうがなかろうが必然的にバグが存在する。そのバグの最たるものが中央アジアの幻の霊峰「イシュクト山」。その山に運命を翻弄される三組のペアと、バグを修正する「世界医」二人がくんずほぐれつ、入子構造、誰が味方か敵か、これはメタフィクションか現実か、もう訳がわからないまま話は暴走し、終盤ようやく全容が明らかとなります。

 

  じゃあ終盤まで退屈かというとそんなことはない。まず一章が5ページ程度と読みやすいですし、エッセイと小説の間的な著者のだべり方が心地よくスルッと読めちゃいます。おまけに注釈がついており、それがまた面白い。

 

  「暗くてヘビー」という宮内悠介のイメージを「超動く家」で払拭し、本作でついにその独特の世界観とユーモアを両立させ、大長編に仕上げた傑作だと思います。

 

  ファンの方で未読の方は是非どうぞ。逆に言えば宮内悠介を本作から入るべきではないかな、とも思いますが。。。

 

  え〜、実に久しぶりのレビューでしたが相変わらず「内容を語らない」Yasuhiroの本領発揮はできたかな、と思います(ヲイヲイ。

 

宮内悠介を読もうシリーズ

盤上の夜(2012)

ヨハネスブルグの天使たち(2013)

エクソダス症候群(2015)

アメリカ最後の実験(2016)

彼女がエスパーだったころ(2016)

スペース金融道(2016)

カブールの園(2017)

あとは野となれ大和撫子(2017)

超動く家にて(2018)

あとは野となれ大和撫子 / 宮内悠介

☆☆☆

  久々の「宮内悠介を読もうシリーズ」です。調べてみたら前回の「カブールの園」のレビューからなんと9ヶ月経ってました。サボりすぎだな。

 

  それはともかく、本人はライトなものも書こうとはしておられるんですが、全体にヘビーなものが多い。で、前回のレビューに

 

次は若干軽そうですが、宮内悠介を読もうシリーズ、キツいっす!

 

なんてことを書いてました。で、その「軽そうな」作品と思ってたのが2017年の作品「あとは野となれ大和撫子」です。予想は半分あたり、半分はずれ、てな感じで結構な長編小説でした。

 

 

 

中央アジアのアラルスタン。ソビエト時代の末期に建てられた沙漠の小国だ。この国では、初代大統領が側室を囲っていた後宮を将来有望な女性たちの高等教育の場に変え、様々な理由で居場所を無くした少女たちが、政治家や外交官を目指して日夜勉学に励んでいた。日本人少女ナツキは両親を紛争で失い、ここに身を寄せる者の一人。後宮の若い衆のリーダーであるアイシャ、姉と慕う面倒見の良いジャミラとともに気楽な日々を送っていたが、現大統領が暗殺され、事態は一変する。国の危機にもかかわらず中枢を担っていた男たちは逃亡し、残されたのは後宮の少女のみ。彼女たちはこの国を―自分たちの居場所を守るため、自ら臨時政府を立ち上げ、「国家をやってみる」べく奮闘するが…!?内紛、外交、宗教対立、テロに陰謀、環境破壊と問題は山積み。それでも、つらい今日を笑い飛ばして明日へ進み続ける彼女たちが最後に掴み取るものとは―? (AMAZON解説より)

 

  後宮の女性たちの活躍といえば、1989年の第一回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した酒見賢一のデビュー作「後宮小説」を思い出しますね。舞台と時代は違えど、何となく雰囲気は似ているように思いました。

 

  かたや酒見の方は中世中国の時代考証をしっかりとした上で描かれる、中国風仮想国で繰り広げられるファンタジー小説

 

  そして本作は20世紀最大の環境破壊と言われる旧ソ連による灌漑事業により干上がった元アラル海(※)に建国された仮想国を舞台に、政変、ゲリラ、中央アジア周辺国との駆け引き、大国の思惑、そして一筋縄ではいかない環境問題などを綿密に考証して組み立てられた、若き後宮女性たちを主人公とするポリティカルフィクション。

 

  どちらも相当の力量と該博な知識がないと書けない代物で、宮内の場合は中央アジアから中近東を放浪した経験と膨大な参考文献を読み込むことにより自家薬籠中のものとしています。

 

  特に各章の終わりに挿入される日本人放浪者のコラムは、著者自身がこの世界に入りこんでいるようで面白かったです、章が終わるたびにニヤニヤしながら楽しんでおりました。

 

  惜しむらくは、このサイトでも多くの方が指摘されているように、終盤の事件解決の仕方が軽くて弱い。

 

  え、こんなことで「解決しましためでたしめでたし」でいいの?

 

よかねえよ、宮内さん!

 

てな感じで八方めでたく終わっちゃいました。できれば続編が欲しいところですね。この辺り、完璧に終わらせた酒見の方が一枚上手、かな。

 

  と、最後は辛口になっちゃいましたが、とても面白いポリティカル・フィクションであることは間違いなく、宮内悠介の作品の中では比較的明るくて読みやすい一本だと思います。

 

*: oldmanさんのレビューアラル海がいかに干上がっていったかを示す写真が掲載されていて、とても参考になります。

 

宮内悠介を読もうシリーズ

盤上の夜(2012)

ヨハネスブルグの天使たち(2013)

エクソダス症候群(2015)

アメリカ最後の実験(2016)

彼女がエスパーだったころ(2016)

スペース金融道(2016)

カブールの園(2017)

超動く家にて(2018)

薔薇のなかの蛇 / 恩田陸

⭐︎⭐︎⭐︎

  初期の恩田陸ファンにこよなく愛されてきた「理瀬シリーズ」の最新刊「薔薇の中の蛇」です。焼き粉の早速のレビューに書いてあるように待たせること

 

17年!  長すぎるわ!!

 

  ということで「三月は深き紅の淵を」(1997)、「麦の海に沈む果実」(2000)、「黒と茶の幻想」(2001)、「黄昏の百合の骨」(2007)と順調に進んできていきなり17年空いたわけですが、その間全く書いていなかったわけではなく、「メフィスト」という雑誌に不定期連載を続けて何とか完成したというのが実情、ご本人のインタビューを読むと

 

ひとえに私の体力が落ちたことや、他の仕事との兼ね合い

 

が原因だそう。今更直木賞とらんでもええから、こっちを先にして欲しかった、というファンは多いはず。

 

 

  さてこのシリーズ、北海道、屋久島、長崎と舞台を変えつつ、水野理瀬という深窓の令嬢的お嬢様が結構タフなヒールに育っていき、欧州マフィアの後継でいかにもな青年ヨハンとのコンビも確立し、ファンはその将来を嘱望していたわけですが、何と今回は日本を飛び出して英国はソールズベリーが舞台となります。

 

  ストーンヘンジで有名なところですが、早速その環状列石を利用して陰惨な殺人事件を導入部として描き、本編に入ると「ブラックローズハウス」と呼ばれる薔薇をかたどった某成り上がり貴族の屋敷にリセ・ミズノは登場。

 

  そこでド派手に殺人事件やら毒殺未遂やら主人失踪やらが起こり、お決まりのお宝鑑定団もあり〜ので盛り沢山。いかにもな本家英国の本格推理小説的に話は進んでいき、そこにスコットランドヤードやMI6、どっかのスパイさんたちも立ち回る中、我がリセ様は神秘的な雰囲気を湛えつつ、いろんな蘊蓄や推理を随所で披露し大活躍、当然ながら貴族の御曹司たちもドキドキ(笑。

 

  一方のヨハンはそこには登場せず、自分の邸(別荘?)で誰か友人の男性と会話している様が随所に挿入されるだけ。こちらは安楽椅子探偵小説の雰囲気。

 

  ということで古今東西のミステリを読み込んできた恩田さんらしい、圧倒的な筆致でグイグイ読者を引っ張っていくのはいいのですが、Kindle90%読み進んでも一向に事件収束の気配がなく、謎解きが始まらない。

 

  そう、恩田陸ファンなら思い当たるはず。

 

  これは、典型的な恩田流「投げっぱなしジャーマン」「風呂敷広げすぎの畳み忘れ」で終わるのではないかと!

 

  結論を言うと、一応何となくこれはこう言う事件だったんだな、と言う謎解きはなされ、理瀬とヨハンがソールズベリにやって来た目的意図は明かされますので「投げっぱなしジャーマン」ではないのですが、風呂敷広げすぎ感は否めない、みたいな感じでした。

 

  恩田陸ファンにはこのスカされかたがたまらないんですが、本格推理小説ファンなら怒り出すんじゃないかと思います。

 

  終わり。。。

 

最後に一言: 題名4割、内容6割がモットーの恩田陸さんなので、まあバランス的にはこんなもんかもしれない。

一度だけの大泉の話 / 萩尾望都

☆☆

   ども、久々の萩洗会(萩尾望都洗脳委員会)です。。。

 

  てな感じで竹洗会(竹宮惠子洗脳委員会)あかつきと二人して、できるだけ楽しい雰囲気で我が敬愛するモー様こと萩尾望都先生とあかつきの敬愛する竹宮惠子先生の作品をこのサイトで紹介してきたのですが、ついにそんな和気藹々の雰囲気を吹き飛ばす本を萩尾先生が上梓されてしまいました。ノンフィクションエッセイ「一度きりの大泉の話」です。

 

 

 

   まず初めにお断りしておきますが、萩尾望都竹宮惠子をはじめとする「大泉サロン派」「花の24年組」の少女漫画に興味のない人には何の益も無い本です。また萩尾、竹宮双方のファンには読むに辛い本です。

 

  ことの発端は、2016年に竹宮惠子が上梓した「少年の名はジルベール」というエッセイでした。代表作「風と木の詩」の主人公を題名にしたこの本の中で著者は萩尾望都の才能の凄さに畏怖と嫉妬を感じていた、と明かしました。

 

 

 

  これはかなりの反響を呼び、それが萩尾サイドに降りかかってきました。コメントや対談を求めらるたびに

本は読んでいません
協力できません

を繰り返してもまた半年毎に蒸し返されが続き、これは仕方がない、一度だけ語ろうと萩尾は決心します。そこで信頼できるインタビュアーを選んで語った筆記録を萩尾自身が文章に起こしたのがこの本です。(漫画家で今はマネージャーの城章子も深く関わっていますがここでは割愛します)

 

  結果、300頁を超える長い回顧録となってしまい、そこには竹宮を始めとするさまざまな漫画家や周辺にいた人々(特に竹宮のブレーンだった増山法恵)が登場し、萩尾ファンとしてはとても興味深いのですが、結局この本の核心は

 

第十一章 『小鳥の巣』を描く 1973年2月〜3月

 

にあります。この時期に萩尾は竹宮と増山に呼び出され、「ポーの一族」の一篇「小鳥の巣」と竹宮が以前から構想し続け萩尾も知っているある作品の関連について質問を受け、そのショックで心因性視覚障害をはじめとする重篤な健康障害に見舞われます。それ以後萩尾は竹宮との交流を断ち、彼女の作品も怖くて読めなくなります。。。

 

 

  そうか、そんなことがあったのか。

 

 

としか言いようがありません。これだけをとってみれば、竹宮(と増山)が一方的に悪い。

 

  でもそんな単純なものではないでしょう。竹宮は竹宮で苦しんでいたと思いますし、萩尾は萩尾で自分の言いたいことをうまく言えない、という欠点を持っていました。

 

  萩尾の対談や講演会を聴いたことのある方ならわかると思うのですが、彼女はそのイマジネーション溢れる雄弁な作品からは想像の出来ないほど、語りは訥々としていますし、内向的な印象を受けます。陰に篭ると二度とあの人は許せないと断交するタイプなのじゃないかと言われれば、残念ながら認めざるを得ません。

 

  しかし、そういうことを差し引いても萩尾望都は傑出した漫画家であり人格者です。ただ、竹宮とはこの先もおそらく交わる事はないのでしょう。それはご本人に言わせれば

時は過ぎ行き、二度と戻ることはない

のだし、城さんに言わせれば

覆水盆に返らず

です。下井草のマンションで起こったことは、彼女たちが夢見て描き続けた架空の世界ではなかったことに出来ても、現実世界ではどうしようもないのです。

 

  というわけで、あかつきのレビューにもコメントしたのですが、こういう経緯を知ってしまった以上、萩洗会、竹洗会と遊んではいられなくなったな、というのが偽らざる心境です。萩尾同様、意固地なのかもしれませんが(苦笑。

 

  最後に一言、竹宮を知らなければやっぱり今の萩尾はなかったと思うよ、あかつきさん。

クララとお日さま / カズオ・イシグロ、土屋政雄訳

☆☆☆

 

  先日レビューしたKlara and the Sunの邦訳です。訳者はいつもの通り土屋政雄氏。

 

 

 

  第一印象:本が分厚い!、こんな長い話だったのか!! (終了頁はp433)

 

Kindleで読んでいたので分かりませんでした。ストーリーは単純、場面転換もそれほど多くない。にしてこの長さ、日本語にすると文章が長くなるとはいえ、驚きました。

 

  第二印象:題名を童話的にしたのに文章は硬い

 

「the Sun」を「お日さま」にした時点で童話方向で柔らかく訳す方向性だったと思うのですが、技術翻訳出身の土屋氏、さすがにこの分野は苦手だったのではないでしょうか、文章の硬軟の使い分けが今回は今一つだったような気がします。

 

  第三印象:ところどころ単語がおかしい

 

この小説の主題AF(artificial friend)が「人工親友」。硬い!そんなネーミングで商品として売れます?手前味噌ですが原著レビューで書いた「お友達ロボット」の方が柔らかくてていいんじゃないかな。

 

原著で序盤一番戸惑った単語が「oblong」。長方形という意味では全然話が通じないので悩んでいましたが、しばらく読むうちに「タブレット端末」のことらしい、と分かってきます。この訳が「オブロン端末」、そんな端末聞いたことあります?

 

邦訳に興味があったのが「lift」、優秀な子供にするための遺伝子操作らしい(最後まで詳細は語られません)のですが、これが「向上処置」、うんまあまあこれは納得。

 

最後に逆にびっくりしたのが「シャーピ鉛筆」、なんじゃこれは!?

 

と、原文を確認したところ、「sharp pencil」、普通やん。。。もしシャープが商標登録の関係で使えないのなら、普通に鉛筆や色鉛筆でいいんじゃない?その辺は土屋氏の専門分野で何とでもなった気がするんですが。。。  

 

追記:これを「本が好き!」に掲載したところ、常連さんがこのサイトを教えてくれました。

 

news.yahoo.co.jp

 

 

 ということで、内容を語らないレビュー健在のYasuhiroでした。ちなみに

 

梗概を知りたい方はrodolfo1さんのレビュー

 

評論を読みたい方はぷるーとさんのレビュー

 

シンパシーを感じたい方はrokoさんのレビュー

 

ネタバレOKの方はクロニスタさんのレビュー

 

がお勧めです。