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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

あとは野となれ大和撫子 / 宮内悠介

☆☆☆

  久々の「宮内悠介を読もうシリーズ」です。調べてみたら前回の「カブールの園」のレビューからなんと9ヶ月経ってました。サボりすぎだな。

 

  それはともかく、本人はライトなものも書こうとはしておられるんですが、全体にヘビーなものが多い。で、前回のレビューに

 

次は若干軽そうですが、宮内悠介を読もうシリーズ、キツいっす!

 

なんてことを書いてました。で、その「軽そうな」作品と思ってたのが2017年の作品「あとは野となれ大和撫子」です。予想は半分あたり、半分はずれ、てな感じで結構な長編小説でした。

 

 

 

中央アジアのアラルスタン。ソビエト時代の末期に建てられた沙漠の小国だ。この国では、初代大統領が側室を囲っていた後宮を将来有望な女性たちの高等教育の場に変え、様々な理由で居場所を無くした少女たちが、政治家や外交官を目指して日夜勉学に励んでいた。日本人少女ナツキは両親を紛争で失い、ここに身を寄せる者の一人。後宮の若い衆のリーダーであるアイシャ、姉と慕う面倒見の良いジャミラとともに気楽な日々を送っていたが、現大統領が暗殺され、事態は一変する。国の危機にもかかわらず中枢を担っていた男たちは逃亡し、残されたのは後宮の少女のみ。彼女たちはこの国を―自分たちの居場所を守るため、自ら臨時政府を立ち上げ、「国家をやってみる」べく奮闘するが…!?内紛、外交、宗教対立、テロに陰謀、環境破壊と問題は山積み。それでも、つらい今日を笑い飛ばして明日へ進み続ける彼女たちが最後に掴み取るものとは―? (AMAZON解説より)

 

  後宮の女性たちの活躍といえば、1989年の第一回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した酒見賢一のデビュー作「後宮小説」を思い出しますね。舞台と時代は違えど、何となく雰囲気は似ているように思いました。

 

  かたや酒見の方は中世中国の時代考証をしっかりとした上で描かれる、中国風仮想国で繰り広げられるファンタジー小説

 

  そして本作は20世紀最大の環境破壊と言われる旧ソ連による灌漑事業により干上がった元アラル海(※)に建国された仮想国を舞台に、政変、ゲリラ、中央アジア周辺国との駆け引き、大国の思惑、そして一筋縄ではいかない環境問題などを綿密に考証して組み立てられた、若き後宮女性たちを主人公とするポリティカルフィクション。

 

  どちらも相当の力量と該博な知識がないと書けない代物で、宮内の場合は中央アジアから中近東を放浪した経験と膨大な参考文献を読み込むことにより自家薬籠中のものとしています。

 

  特に各章の終わりに挿入される日本人放浪者のコラムは、著者自身がこの世界に入りこんでいるようで面白かったです、章が終わるたびにニヤニヤしながら楽しんでおりました。

 

  惜しむらくは、このサイトでも多くの方が指摘されているように、終盤の事件解決の仕方が軽くて弱い。

 

  え、こんなことで「解決しましためでたしめでたし」でいいの?

 

よかねえよ、宮内さん!

 

てな感じで八方めでたく終わっちゃいました。できれば続編が欲しいところですね。この辺り、完璧に終わらせた酒見の方が一枚上手、かな。

 

  と、最後は辛口になっちゃいましたが、とても面白いポリティカル・フィクションであることは間違いなく、宮内悠介の作品の中では比較的明るくて読みやすい一本だと思います。

 

*: oldmanさんのレビューアラル海がいかに干上がっていったかを示す写真が掲載されていて、とても参考になります。

 

宮内悠介を読もうシリーズ

盤上の夜(2012)

ヨハネスブルグの天使たち(2013)

エクソダス症候群(2015)

アメリカ最後の実験(2016)

彼女がエスパーだったころ(2016)

スペース金融道(2016)

カブールの園(2017)

超動く家にて(2018)