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備忘録、採点表

月人壮士 / 澤田瞳子

⭐️⭐️

  螺旋プロジェクトも六作目に入り、いよいよ古代編。題名は「つきひとおとこ」と読む。これについては最後に解説。気鋭の歴史作家(といっても初耳だが)、澤田瞳子さんの作品。

  時代は奈良時代後半、主人公は聖武天皇。歴史の教科書的には東大寺を建立されたことで有名な天皇である。東大寺と言えば私の母校。この天皇がいなければ母校はなかったわけで、極端な話、今の時代にまで影響を及ぼし続けている偉大な天皇と言える。

 

  その反面、当時の人々にとっては傍迷惑この上ない天皇。女好きで数多の王女に手を出し、5年で4回(恭仁、難波、紫香楽、平城京)もの遷都を繰り返し、天孫でありながら仏教に深く帰依したはいいが鑑真を重んじるあまり旧来の仏教勢力を蔑ろにし、バカでかい大仏を建立を思い立つ。そんな聖武天皇は果たして、

稀代の聖帝か大いなる暗愚か

どちらであったのか、そしてどのような人間で何を考えて行動していたのか?

 

  その真の姿を周囲の複数人物の証言によって炙り出していこうというのが、今回の澤田瞳子さんの試み。よくある形式であるが、うまく機能しているかと言えば残念ながらNO。正直に言ってあまり面白くはなかった。一応奈良の歴史は人並み以上に勉強した奈良県人でも地味な話だなあと感じるのだから、螺旋プロジェクトの一作として読まれる方には面白くも何ともないのでは、と危惧する。

 

  さて、その螺旋プロジェクトに関しての設定は

 

天皇家が「山」族

藤原氏が「海」族

・片方の目が青い審神者(さにわ)として造東大寺司長官佐伯今毛人

・「螺旋形あるいは蝸牛形のアクセサリー」として塩焼王が作らせた巻貝の彫り物が道祖王聖武天皇)、安積親王阿部(後孝謙天皇、受け取れず)、光明氏道鏡藤原仲麻呂と渡っていく。ちなみに誰の命も助けた節はない。

 

個々の人物でその他にも海族山族の設定はあるが、大きく言って天皇家(山)を侵食していく藤原家(海)という構図で当時の権力闘争を描いている。

 

  まあ、高校レベルの歴史の知識でもわかることだが、奈良時代と言うのは「あおによし」のイメージとは逆に陰惨な謀略や政略結婚と殺し合いばっかり。皇統家系図に至ってはややこしいことこの上なく、試験前の詰め込みでよくもこんなの覚えられたな、の世界。

  そしてこの作品の時代はざっくり言って藤原四兄弟対反藤原勢力。その最たるものが長屋王。そんなこんなで疲れ果てた海山半々の(おびと)(聖武天皇)が天平勝宝八年五月二日に崩御したところから話は始まる。

  阿倍孝謙・称徳)の後継として皇太子に道祖王を立てるという遺詔は死の五日前に出ていたが、それを不満とする勢力が、今わの際のご遺詔がなかったかを探し回る。具体的には、橘諸兄中臣継麻呂清麻呂の三男)と僧道鏡の二人を使う設定。証言するのは

 

円方女王(まどかたのおおきみ、首の掌侍、首と宮子の思い出)

光明氏(皇后、自身の思いと遷都、安積親王の件について)

栄訓(僧、鑑真に反感)、

塩焼王(遷都の苦労、自分の凡庸を自覚し弟の道祖王に期待)、

中臣継麻呂長屋王変の証言者)、

道鏡(自身の遺詔の真の目的)、

佐伯今毛人(上記、片目の青い審神者)、

藤原仲麻呂(首の真のトラウマについて証言)

 

の八人。結局誰も遺詔などないと証言。途中で遺詔探しを命じた当の橘諸兄も死亡。

  なんじゃそりゃの世界だが、その混沌の中で見えてきたことをざっくりとまとめると

 

  首(おびと)(聖武天皇は山族(文武天皇)と海族(藤原宮子)の子、非正統なる藤原家の血が混じっていることに生涯悩む。宮子が早くに精神的失調をきたしたため、母の愛も知らずに育ったが故のマザコン光明氏との間に男児が生まれずやっと生まれた基王もすぐに亡くなり、娘の阿倍以外に後継を託すものがいないことも負担になった。その阿倍も父や家系への複雑な思いと、慕っていた安積親王の客死で独身を貫く(ちなみに澤田氏は藤原仲麻呂による暗殺説を否定)。結局藤原氏から縁の遠い道祖王を皇太子に立てるのが天皇家を侵食し続ける藤原氏へのせめてもの反抗であった。

 

  そして最後の証言者である藤原仲麻呂の言によれば

  首さまはかつての大王の如く、天日嗣に連なる非の打ちどころのなき統治者ではない。山の形を借りた海、日輪の真似をした哀れなる月人壮士(つきひとおとこ)じゃ。

 

  「天日嗣に連なる非の打ちどころのなき」後継者たり得たのは天智・天武双方の血を引く長屋王藤原四兄弟の謀略により失脚自殺するが、これほどの大物、首の詔勅があったのかなかったのか。これが藤原仲麻呂の証言の最大の山場となる。う~ん、やっぱり地味な話。そしてエピローグでやっと首の独白が入って終わる。

 

  よって、この作品ではここまでであるが、この藤原仲麻呂も後年失脚。道鏡は阿倍(孝謙天皇)の股肱の臣となり悪名を後世に残す(本当かどうかはわからないが)。

 

  そして時は移ろい昭和末期長屋王とみられる遺跡が奈良市二条大路南で発見された。世紀の大発見であったにもかかわらず、その場所には大型商業施設が建設されてしまった。長屋王は二度葬り去られたのだ。

 

螺旋プロジェクト

 

原始 「ウナノハテノガタ」 大森兄弟

古代 「月人壮士」 澤田瞳子

中世・近世 「もののふの国」 天野純

明治 「蒼色の大地」 薬丸 岳

昭和前期 「コイコワレ」 乾 ルカ

昭和後期 「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎

平成 「死にがいを求めて生きてるの」 朝井リョウ

近未来 「スピンモンスター」 伊坂幸太郎

未来 「天使も怪物も眠る夜」 吉田篤弘

 

 

 気鋭の歴史作家が描き出す、聖武天皇の真実! '756年、大仏建立など熱心に仏教政策を推進した首(聖武)太上天皇崩御する。道祖王を皇太子にとの遺詔が残されるも、その言に疑いを持った前左大臣橘諸兄の命を受け、中臣継麻呂と道鏡は、密かに亡き先帝の真意を探る。しかし、ゆかりの人々が語るのは、母君との尋常ならざる関係や隔たった夫婦のありよう、御仏への傾倒、迷走する政……と、死してなお謎多き先帝のふるまいや孤独に沈む横顔ばかりで――。 伊坂幸太郎朝井リョウをはじめとする人気8作家による競作企画【螺旋プロジェクト】の1冊としても話題!(AMAZON解説)

 

ころころろ / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️

   しゃばけシリーズ第八作。いつものように五編の短編が並んでいるが、今回はその全てを貫いて、若だんなの失明騒動を描いているところが面白い試み。

 

  まず一作目の「はじめての」では、若だんな一太郎12歳の頃のほのかな初恋が描かれる。その初恋の少女の母が目を患っており、目の神様「生目神(いくめがみ)」のことにさらっと触れられる。

 

  そして二番目の「ほねぬすびと」冒頭、一太郎が突然失明してしまい、大騒ぎに。そんな折も折り、長崎屋はある武家からの依頼を断りきれず困り果てている。それは、何度やっても失敗するから長崎屋の船で魚の干物を運んでほしいというもの。主人である一太郎の父は渋々ながら引き受け、無事干物を入れた籠は長崎屋の蔵に到着するが、その夜全ての籠から干物がなくなってしまい、父は窮地に立たさる。

 

  目の見えぬ一太郎だが、そこは推理力でことの真相にたどり着き、武家の対面を汚さない解決法も思いつき、万事丸く収まる。が、一太郎は失明したまま。そしてこれは病ではなく、ある玉を紛失したためくだんの生目神が怒ってやったことではないか、ということに。

 

  そして三番目の「ころころろ」は、手代の大妖白沢こと仁吉が若だんなの目を元に戻すべく、前作で河童に持ち去られたらしい玉を探して江戸中を奔走。手がかりはすぐに見つかるが、貧乏神金次のなせるわざか、やたらと妖たち、そしてあやかしの見世物小屋から逃げてきた少年に頼られてしまい、立ち往生。さらには悪鬼や見世物小屋の人間たちと対決する羽目になり。。。 仁吉の困りっぷりが笑える、一番躍動的な作品。

 

  一方、四番目の「けじあり」は雰囲気が一変。今度は犬神こと佐吉の出番だが、なんと、その佐吉が嫁をもらい独立して小間物屋の主人となっている。その小間物屋に朝になると「けじあり」という文字が書かれた紙が貼られる。なんのことかさっぱりわからない佐吉。

  そして鬼をやたら恐れ、退治してくれとすがる嫁。どんどん店構えが大きくなっていく小間物屋。この世のものと思えぬ妙な雰囲気が漂う中、後半物語は急展開、一太郎の失明騒動との関連が最後に明かされる。本巻でも一番幻想的な佳作。

 

  最後の「物語のつづき」はいよいよ生目神と、一太郎&仁吉、佐助をはじめとする長崎屋の常連の妖たちとの対決。場所は例の、金には汚いが霊能力は極めて高い僧寛朝のいる上野広徳寺。神様にしては聞き分けのないひねくれ者の生目神一太郎の目を元に戻したくば物語の続きを答えてみよと無茶な注文。桃太郎、浦島太郎、さらには自身の悲恋物語と提案していき、、、

 

  面白いし、日本の神に関する考察がなかなか鋭いとは思うが、前二作で仁吉と佐助が見つけ出した玉との関連があまりはっきりと語られていないので、これまでの流れが断ち切られた感あり。

 

  試みは面白いが、やや残念な印象を拭えない巻であった。

 

ある朝突然、若だんなの目が見えなくなってしまったからさあ大変。お武家から困ったお願いごとを持ち込まれていた長崎屋は、さらなる受難にてんやわんやの大騒ぎ。目を治すための手がかりを求め奔走する仁吉は、思わぬ面倒に巻き込まれる。一方で佐助は、こんな時に可愛い女房をもらっただって!?幼き日の一太郎が経験する淡い初恋物語も収録された、「しゃばけ」シリーズ第八弾。  

 

チコちゃんに叱られる! / NHK「チコちゃんに叱られる!」制作班

⭐︎⭐︎⭐︎

ボーっと生きてんじゃねーよ!

 

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チコちゃんラインスタンプ

 

   といきなりかましてみましたように、わたくし、今や国民的番組となったNHKの「チコちゃんに叱られる!」が大好きで毎週録画して観ております。

 

  この番組、小生意気で何でも知ってる「永遠の5歳」チコちゃんが、ナイナイの岡村とゲスト二人にタメ口を聞きつつ、みんながこれまで見過ごしてきた素朴な質問を投げかけ、回答者がとんちんかんなことを言うと~、

 

CGの顔が真っ赤になり、眼がつり上がり~、火を吐いて~

 

ボーっと生きてんじゃねーよ!

 

かますわけでございます。わたくし、この台詞が今年の流行語大賞の有力候補だと思っております。

 

  で、なんと、チコちゃんのかわいいようなかわいくないようなボイスチェンジャーで変調した声の主は、驚いたことに、キム兄こと木村祐一さんです。

 

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キム兄

 

  謎なのは、最後に出てくるカラスのキョエちゃんの声。誰なのかはまだ公開されていないためいろいろな憶測が飛び交っています。マジで歌がうまいので、「いきものがかり」の吉岡聖恵さんではないかとの説が有力らしいです。

 

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岡村に手紙を渡すキョエちゃんカラス

 

  また、俳優さんのショートコントも絶品です。私は木村多江さんの一人芝居の大ファンで、この前の「」には涙しました(ホントスカ。

 

  というわけで、このムック本には全部で17の質問と専門家の回答、それ以外に「チコの部屋」と題したミニコーナーなどなどが収められています。

 

  ちなみに学生時代、 「入試に出ないしょーもない雑学の宝庫」 と呼ばれていたわたくしのこと、かなりの確率で当たります。まあ二つか三つに一つは軽い(をいをい。  

 

例えばこの本に収められている中で言いますと、

 

なんで人は右利きが多いの?」*1

 

くらいは軽い。

 

分からない人は~

 

ボーっと生きてんじゃねーよ!

 

え?それはお前の専門分野だからだろって?

 

フフフ、ではこれはどうだ? 「なんで都道府県の中で北海道だけ道がつくの?」*2

 

分からない人は~ ボーっと生きてんじゃねーよ!

 

  そんな私が驚いたのは、 「なんでクジラはあんなに大きくなったの?」*3

 

これには  

 

ボーっと生きてんじゃねーよ!

 

を喰らってしまいました。

 

  という訳で、楽しみながらオベンキョができるムック本ですが~  

 

1100円は高い!

 

さあ、キョエちゃんの声で、  

 

NHK、バカー

 

*1: 言葉を話すようになったから

*2: 面積が大きいから

*3: 食べ過ぎたから

 

ホントスカ!!!!!

ポーの一族 ユニコーン編

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

   ついに出ました、世界にその名を轟かせるJapanese Shojo Manga「The Poe Clan」こと、萩尾望都先生の「ポーの一族」の最新巻「ユニコーン」。

 

  いよいよ40年前の「ポーの一族」の最終章「エディス」と、前作「春の夢」の世界が融合し、新たなポーの一族の世界が構築されていく。

 

  復習しておくと

 

「エディス」:1976年 ロンドン エヴァンズ家の火事の中、エディスを助けたエドガーとアランが 帰ろう、帰ろう、遠い過去へ もう明日へは行かない と業火の中に姿を消す。

 

「春の夢」:1944年 ウェールズ 白髪のユダヤ人少女ビアンカが、一族のファルカの力で一族の仲間入りをする。

 

  そして本作により、「春の夢」の世界が本編と融合する。

 

Vol.1: 2016年 ミュンヘン   火事の40年後、一族もスマホを使う時代となったミュンヘンエドガーが姿を現す。喜んで抱きつこうとしたファルカを「わたしを触るな」とエドガーは拒絶。

  アーサー・トマス・クエントン卿の力で復活できたエドガーだったが、痩せて小さくなるとともに、触れられた途端に相手の気を吸い取る状態になっていたのだ。

  エドガーは黒化した炭となってしまったアランを復活させてほしいとファルカに頼むが、それはできないこととファルカは拒絶。そこへ現れたのがファルカが怖れ忌み嫌うダイモンという男。この男、バリーとも呼ばれ、真の名前は不明。

  エドガーと同じくキングポーの血をひく男でありながらキングポーに追放された過去があり、一族からは「悪魔」「疫病神」扱いされている。

 

  しかしエドガーは アランを取り戻すためなら

 ぼくは悪魔とだって契約する

という言葉を残し、ダイモンとともに去っていく。

 

Vol.2: ホフマンの舟歌(バルカロール) 1958年 ヴェネツィア   ベネチアのサンタルチア協会のサルヴァトーレ主催のコンサートに招かれて、エドガー、アラン、ファルカ、ブランカがやってきて、ダン・オットマー(ルチア一族)と再会。そこに現れたのが、バリー。ここではミューズと名乗っている。

  かつてここでキングポーが「世界で1番美しい舟歌」と評した「ホフマンの舟歌」(バルカロール)を、ミューズとかつてサルヴァトーレが恋したエステルの娘ジュリエッタが歌う中、エドガーはルチオ一族の始祖、シスター・ベルナドットと初めて出会う。エドガーがポーの一族とルチア一族の歴史を聴いている間、バルカローレに感激したアランはミューズを絶賛、ミューズはその礼に彼の真の名前を教える。しかしエドガーが帰ってきた時、アランはそのことを全く覚えていなかった。

 

Vol.3: バリー・ツイストが逃げた 1976年ロンドン

  エドガーとアランがアーサー・トマス・クエントン卿にバラを送るために花屋を訪れた際、エドガーは「春の夢」でポーの村のバラを枯らして村を追放されたクロエを目撃し追いかけます。クロエに以前の凶暴性はなくなっており、エドガーに、1000年以上昔バリー・ツイストがバラを枯らして逃げたときのことを語って聞かせます。

  クロエが老ハンナの導きによりポーの一族に加わった経緯、憧れていた美貌の持ち主フォンティーのこと、その弟がバリーであること、そしてキングポーが自分たちの王国を作ろうとするフォンティーンとその取り巻きをどう始末したかが語られ、フォンティーンにまつわるポーの村の薔薇の秘密が明かされる。

 

  そしてこの一か月後のエヴァンズ家の火事に話は回帰。エドガーとアランが業火の中に姿を消した後、エディスを助けたのはなんとこのバリーだったのだ。外から呆然と眺めるファルカ、シルバー、ビアンカビアンカはファルカの問いに

(エドガーは、アランは)わかららないけれど どこかにいる どこかにいる

と答える。

 

Vol.4: カタコンベ 1963年 ローマ

  アランに近づき、彼を自分の塔に誘うバリー。最後に絶体絶命の窮地に追い込まれたアランがついにバリーの真の名を思い出す。これは読んでのお楽しみ。

 

  今回も「ホフマンの舟歌」を始め、オペラやクラシック音楽が満載で、美しい絵と音楽の中、ポーの一族の世界が展開されていく。

 

そして次回に期待したいのは当然ながら2016年のその後、アランは再生するのか?   待て、次号!(フラワーコミックスの回し者かっ!)

V

コイコワレ / 乾 ルカ

⭐️⭐️⭐️

   螺旋プロジェクト#5、ここから女性作家が二人続く。まずは乾ルカの「コイコワレ」。「蒼色の大地」の明治と「シーソーモンスター」の昭和後期の間を埋めるピースで昭和前期が舞台。具体的には太平洋戦争末期の1944-5年の出来事を海族山族二人の少女を主人公として描いている。

  これまでの作品に比べて地味だけれどジワリと胸に染みてくる好編であり、その中で螺旋プロジェクトのルールを荒唐無稽にならずとてもうまく活かしていた。特に付けているものの命を一度だけ救って壊れてしまうという、螺旋(あるいは蝸牛)型のアクセサリーを物語の中心に置いたところが乾ルカの炯眼。

 

太平洋戦争末期。日本の敗色が濃くなる中、東京から東北の田舎へ集団疎開した小学生たち。そのひとり、清子は疎開先で、リツという少女と出会う。「海」と「山」という、絶対相容れない宿命的な対立の出会いでもあった――。 戦争という巨大で悲劇的な対立の世界で、この二人の少女たちも、長き呪縛の如き、お互いを忌み嫌いあう対立を繰り広げるのだが……. 「螺旋」プロジェクト、激動の昭和前期篇、ついに登場! 

 

  敗色濃厚になりつつある日本、海族の少女清子は東京から宮城県の山奥の村に集団疎開してきた。優しい母と離れ、青い目が故に仲間外れにする同級生と共同生活するだけでも辛いのに、その村には決して相入れない種族である山族の少女がいた。おまけに宿所となる寺の子で否応なく顔を合わせてしまうことに慄然とし、吐き気がするほど激しい嫌悪感を抱く。唯一の心の拠り所は出立前に母からもらった手作りの螺旋の首飾り。

 

  一方の山族の娘、リツは捨て子で山族の特徴である大きくとがった耳を持つが故に村の子供達から山犬と蔑まれている。彼女の味方は育ててくれたお寺の家族、特にリツが片想いしているこれまた寺のもらい子の健次郎と、山中に棲む炭焼きで彼女を拾って寺に預けてくれた源助という老人。源助は片目が青い。そのリツも当然ながら清子に猛烈な嫌悪感を抱く。

 

  この静の清子、動のリツの二人の、狂的とも言える対立を軸に物語は進み、それに螺旋の首飾りが深く関わってくるという設定。

 

  まずはリツが、赤紙が来て出征する健次郎にその螺旋のお守りをあげたくて清子に頭を下げるが激しく拒絶される。

  リツはどうしても欲しくて、清子が風呂に入っている間に盗んでしまう。

  健次郎はそれを察し、一晩だけつけて明日清子に返すとリツに言う。

  その健次郎、出征前の夜山向こうの母親がいるかもしれない村へ雪の中でかけ、、、

 

  ここから先を書いてしまうと興を削ぐので割愛するが、源助が拾って返しはしたものの清子は激怒、一方のリツも起こってしまった事件に逆恨み的に激怒、あげくに清子を山中の滝壺に落としてしまう。

 

  これだけ激しい憎しみ合いの中で、二人はお互いに謝罪しお互いを許容していくことができるのか?清子には母、リツには源助という理解者・指導者はいるが、当然一筋縄ではいかない。挨拶をするようになっただけでも大変な進歩であるが、最後の最後まで和解までは至らない。そして別れの日、リツがようやく完成させたあるものを届けようとして待ち受けていた運命は?

 

  その個人対個人の攻めぎあいの中でも、聡明な清子は、国対国の戦いの中で相手国のすべてを拒否するのではなく、個人のレベルでは母を思い恋人を思う気持ちは我々と変わらないのではないだろうか、というところへ思いを致していく。この辺りの話の進め方もとても自然で上手いと思った。

 

  それにしても「コイコワレ」にはどういう漢字をあてるのが正しいのであろうか?この二人の関係は少なくとも「恋い恋われ」ではない。ヒントは各章の題名にあると思う。ヒントはおそらく「こう」で固めた凝った各章の題名にあると思う

「逅」「恋う」「紅」「乞う」「光」「交」「攻」「効」「考」「劫」

「乞い乞われ」が文字的には一番しっくりくるが、「コワレ」は単なる受動形ではなく、首飾りの運命「壊れ」かも。私としては「乞い壊れ」を当てたい。

 

 

  まあその首飾りに関するラピュタの飛行石のような超自然現象はあるものの、このシリーズの中では最も現実的に個人のレベルで対立と憎しみを深く掘り下げ、かつルールのアクセサリーをうまく使った佳作だと感じた。

 

  なおプロジェクトのサービスとしては次の「シーソー・モンスター」へのバトンタッチとして、リツの夢の中で、教師になった清子の生徒として一瞬「みやこさん」が顔を出す。

 

 

螺旋プロジェクト

 

原始 「ウナノハテノガタ」 大森兄弟

古代 「月人壮士」 澤田瞳子

中世・近世 「もののふの国」 天野純

明治 「蒼色の大地」 薬丸 岳

昭和前期 「コイコワレ」 乾 ルカ

昭和後期 「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎

平成 「死にがいを求めて生きてるの」 朝井リョウ

近未来 「スピンモンスター」 伊坂幸太郎

未来 「天使も怪物も眠る夜」 吉田篤弘

 

 

 

いっちばん / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️

  しゃばけシリーズ第七作。安定の短編五編構成。にぎやかに妖勢ぞろいで始まるが、後半はちょっと退屈、このシリーズのお約束の設定に沿った話でまあまあ予定調和の世界。

 

兄の松之助が長崎屋を出て所帯を持ち、親友の栄吉は菓子作りの修業へ。普段から病弱な若だんなは、さらに寂しそう。妖たちは若だんなを慰めようと、競って贈り物探しに出かけるが。長崎屋と商売がたきの品比べに、お雛をめぐる恋の鞘当て、果ては若だんなと大天狗の知恵比べ―さて勝負の行方はいかに?シリーズ第七弾は、一太郎の成長が微笑ましく、妖たちの暴走も痛快な全五編。

 

 「いっちばん

  腹違いの兄松之助が結婚して分家、親友栄吉は菓子作りの修行に出て、若だんな一太郎は寂しい。お金にやや汚く長崎屋で出る菓子が大好物の岡っ引き、日限(日切)の親分くらいがやってくる話し相手。ところがその親分も最近はやりの掏摸の目星はついているのに確証がないため捕まえられず元気がない。

 

  妖たちは若だんなを慰めようと、若だんなは日限の親分の窮地を救おうと、例によって例のごとく大騒動に。今回は妖が勢ぞろい。鳴家、屏風のぞき、鈴彦姫、獅子、野寺坊、獺、蛇骨婆、猫又のおしろたちみんなよってちょっと間抜けでユーモラスな活躍ぶり。僧寛朝や仁吉、佐助まで巻き込んで最後は見事な大捕物となり、また日限の親分の手柄が一つ増えるのであった。

 

いっぷく」  長崎屋の近くに、二軒の唐物屋が開店した。西岡屋、小乃屋といい、どちらも近江から上京し江戸に店を構えたのだが、その二店の間には微妙な敵愾心がある模様。それはさておき、この二店、早く常連をつけたく、廻船問屋として流行っている長崎屋に目をつけ品比べを主人の藤兵衛に持ちかけてくる。長崎屋側としてはいい迷惑だが、藤兵衛は引き受ける。

 

  一方で日本橋界隈に妖の噂が最近立っていて、妖と暮らす若だんなとしては店の評判に傷がついてはいけないと気を揉んでいる。誰が流しているのか?どうも件の小乃屋の息子、七之助が怪しい。で、探りを入れに妖たちが走るが、なんと一匹の鳴家七之助に捕まってしまう。ところがこの七之助、単純に敵ではないような様子。

 

  オチには前作「ちんぷんかん」の「鬼と小鬼」に出てきたキャラクタが再登場、若だんなと涙の再会を果たす。誰かは両方読んでのお楽しみ。

 

天狗の使い魔

  いきなり天狗に攫われた若だんな。天狗と狛犬と神使狐の喧嘩に巻き込まれ。。。う〜ん、いささか話が冗長で退屈。

 

餡子は甘いか

   題名でもう想像がついてしまうが、一太郎の親友で菓子作りの修行に出た栄吉の挫折と奮闘のお話。栄吉の作る餡は壮絶に不味いというシリーズ当初の設定が延々と踏襲されており、もういささか鼻についてしまう。まじめに何年も菓子餡の作り方を勉強し修行を重ねていて、味の変な餡しか作れないなどいくら何でもありえないだろう。

 

ひなのちよがみ

  紅白粉屋の白塗りお化けことお雛さんが主役。付喪神屏風のぞきとの一件で白塗りをやめ薄化粧にしたお雛さんはとても綺麗。だから長崎屋に現れたお雛さんがだれか皆分からない。でも若だんなはあっさり一目でお雛さんだと分かる。おまけに母のおたえは変わったとも何とも言いさえしない。このあたりの機微はとても上手い。

  肝心の話はお雛さんが長崎屋も焼け出されたあの火事で傾いた店の経営を手伝おうと奮闘する中で、お雛さんや婚約者、そして若だんなも仁吉と佐助に商売の難しさを教わっていくという筋立て。なかなかうまいとは思うがこの期に及んでまた白塗りを持ち出すのはちょっとどうかなと思う。

 

  シリーズもちょうど真ん中あたりだが、ちょっと難しい局面に来ている気がする。

 

 

蒼色の大地 / 薬丸 岳

⭐️⭐️

  螺旋プロジェクト第四作目は薬丸岳の「蒼色の大地」。天野純希の「もののふの国」の1000年近くに渡る武士の時代についで、今回は明治が舞台。

 

 薬丸岳の新境地にして新たな代表作。 壮大なスケールで贈るエンタメ巨編! 一九世紀末。かつて幼なじみであった新太郎、灯、鈴の三人は成長し、それぞれの道を歩んでいた。新太郎は呉鎮守府の軍人に、灯は瀬戸内海を根城にする海賊に、そして鈴は思いを寄せる灯を探し、謎の孤島・鬼仙島にたどり着く。「海」と「山」。決して交わることのない二つの血に翻弄され、彼らはやがてこの国を揺るがす争いに巻き込まれていく。 友情、恋慕、嫉妬、裏切り――戦争が生む狂気の渦の中で、三人の運命が交錯する。(AMAZON解説)

  

  過去三作で名前の出ていた瀬戸内海の「鬼仙島」がいよいよ主舞台となる。時の支配者の手の及ばない治外法権の島という設定を踏襲し、青い目を持つが故に青鬼と呼ばれ不当で激しい差別を受ける「海族」が難を逃れて住み着き、島の支配層となっているという設定。

  そして近くの二つの島を根城として「海龍」という女性を頭目として海賊行為を働いている。

  なお、「もののふの国」では大塩平八郎の養子が長老族の計らいでこの島に逃げ込んだが、彼も後半に顔を覗かせる。

  

  そして主人公はやはり差別の中で育ったという少年。この島に流れつき、人殺しを嫌いつつもやむなく海賊の仲間となっていく様が前半では描かれる。新入りでまだ何もできないにも関わらず、青い目を持つが故に海龍と頭領である蒼狼に目をかけられている。

 

  対する「山族」の主人公は海軍軍人となった新太郎、灯に命を助けられて以来ずっと彼のことを気にかけているという少女の兄妹。

  この兄妹も貧しいが故に辛い過去を持つが、新太郎は呉鎮守府の長官山神という男の目にとまり、海軍軍人となり山神の寵愛を受けている。その理由は容易に想像がつくが、山神も山族であるから。ちなみに「もののふの国」で長州勢が皆山族であったとの設定を踏襲し、軍属の最高責任者山縣有朋も山族であるので山神の覚えもめでたい。

  そしてヒロイン。人殺しを生業とする軍人に兄がなってしまった事に憤りを感じ、激しく反発しているとともに、灯のことが気になって仕方がない。それ故に鬼仙島へ渡ることを決意し決行する。行けば生きて帰れるかどうかもわからない、どういう目にあうかもわからない事は覚悟の上の渡航であったが、着いてすぐに受難が待ち受ける。

 

  このあたり、前半の流れはスムーズで手際よく三人三様の世界が描かれていて面白いし、今後の三者の遭遇の様にも期待を抱かせる。

  中盤には山神の海賊討伐にかける強い決意の中に潜む狂気、すなわち山族の海族に対する憎しみ嫌悪がじわじわあからさまになっていく様も興味深くはある。

 

  しかし残念ながら後半が凡庸。海軍対海賊の戦闘の描き方は中途半端で「村上海賊の娘」の怒涛の迫力の半分どころか一割もない。灯の出自の種明かしもあまりにもありきたり。かといって鈴との交情にもそれほど力が入っていないので、結末にも今ひとつ感情移入できない。伏線の回収もそれほど感嘆するほどのものはない。敢えて言えば海族と山族の生理的嫌悪感を超えた愛、友情が描かれるところが救いとなっている。

 

  薬丸岳という作家の作品を読むのは初めてだし、螺旋プロジェクトの一環という点を考慮する必要はあるだろうが、あまり自分好みではないな、と思った。

 

螺旋プロジェクト

 

原始 「ウナノハテノガタ」 大森兄弟

古代 「月人壮士」 澤田瞳子

中世・近世 「もののふの国」 天野純

明治 「蒼色の大地」 薬丸 岳

昭和前期 「コイコワレ」 乾 ルカ

昭和後期 「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎

平成 「死にがいを求めて生きてるの」 朝井リョウ

近未来 「スピンモンスター」 伊坂幸太郎

未来 「天使も怪物も眠る夜」 吉田篤弘