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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

Klara and the Sun / Kazuo Ishiguro

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 お久しぶりです。コロナコロナで読む気力も失せてしばらく読書から遠ざかっていました。それでもこれだけは読まなければと3月からぼちぼちと読み始め、GWでまとまった時間を費やすることができ、ようやく完読しました(リンクはハードカバーにしてありますが、実際はKindleで読んでいます)。

 

 

 

 ノーベル賞作家となったKazuo Ishiguroの受賞後初の長編「Klara and the Sun」です。全世界からの期待がかなりのプレッシャーとなっていたことは容易に想像できますが、代表作「Never Let Me Go(私を離さないで)」路線で無難に来たな、というのが読み始めての第一印象でした。

 

 「私を離さないで」はKathy Hというクローン女性が来し方を独白するという形式で、臓器を提供するために生まれてきたクローンたちの哀しみを淡々とした筆致で描いた傑作近未来SFでした。そして本作はKlaraというAF(お友達ロボットとでも訳すのでしょうか)が病弱な少女Josieに仕えた日々を回顧するという、よく似た形式となっています。おそらくKazuo Ishiguroが人が生きていくことの意義、喜びや哀しみを最も表現しやすい文体なのでしょう、受賞後第一作で失敗が許されない以上無難な選択だったと思います。

 

  ただ惜しむらくはKlaraが子供相手のロボットであるためか(?)やや思考回路が幼く、メインの主人公が少女と少年の二人であることもあり、ジュブナイル小説的な印象が拭えません。

 後半もかなり進んでから小説世界の詳細な説明やJosieの病気の真相の説明がなされ、大人たちの思惑も深く描かれ始めてようやくエンジンがかかってきますが、それでもKlaraの健気な奮闘の幼さがブレーキとなり、クライマックスがジュブナイルを通り越しておとぎ話的になったのは残念でした。

 

  その意味では「Klara and the Sun」という題名自体が束縛になっていたのかもしれません。

 

  それでも最終章では、ようやくこれぞKazuo Ishiguroだと思える、深い思索と物寂しくも深い余韻を残す文章が続きます。この章のすべてのパラグラフで涙を禁じ得ませんでしたが、この短い会話だけはほっこりととさせてくれました。

 

'Thank you' I said 'Thank you for choosing me.' 'No-brainer.' Then she gave me a second hug, .....

 

  最後に原文と訳書について: 

  最近の彼の作品は全てそうであるように、本作も訳書が同時出版となっています。訳者はこれまたお馴染みの土屋政雄氏で題名は「クララとお日さま」となっています。これから購入して、この作品をどんな雰囲気で土屋氏が訳されているのか、また幾つか疑問だった箇所などを確認したいと思います。