シーソーモンスター / 伊坂幸太郎
⭐️⭐️⭐️⭐️
螺旋プロジェクト第二回配本は言い出しっぺの伊坂幸太郎。
我が家の嫁姑の争いは、米ソ冷戦よりも恐ろしい。バブルに浮かれる昭和の日本。一見、どこにでもある平凡な家庭の北山家だったが、ある日、嫁は姑の過去に大きな疑念を抱くようになり…。(「シーソーモンスター」)。ある日、僕は巻き込まれた。時空を超えた争いに―。舞台は2050年の日本。ある天才科学者が遺した手紙を握りしめ、彼の旧友と配達人が、見えない敵の暴走を阻止すべく奮闘する!(「スピンモンスター」)。(AMAZON解説より)
第一回配本朝井リョウの「死にがいを求めて生きているの」の平成を挟むように、
・昭和バブル期(1980年代)を舞台とした「シーソーモンスター」
・近未来(2050年)を描く「スピンモンスター」
の中編二作から成る。全く別の物語であるが、「シーソー」の重要人物を「スピン」にキーパーソンとして登場させており、長い年月を経た同じ世界という設定は「魔王」と「モダンタイムズ」の関係を思い出す。
伊坂が「単独の作品としても楽しめる」と書いているように、彼独特の軽妙な語り口、それでいて重い社会問題の提起、巧妙な伏線、ラストのどんでん返し等々は健在。
とは言えこの作品はやはり螺旋プロジェクトの一環として読まないとやや珍妙で尻切れトンボな感じを受ける。このあたり、単独の作品として読みたかった朝井リョウとは対照的。
ここで三つのルールをあらためて確認しておく。
1:「海族」と「山族」、2つの種族の対立構造を描く
2: 全ての作品に同じ「隠れキャラクター」を登場させる
3: 任意で登場させられる共通アイテムが複数ある
1に関してはもう二作ではっきりした。海族には「目」に、山族は「耳」に特徴がある。それを見届ける役割を持つものは片側ずつ両者の特徴を有する。海と山が出会うと必ず反発しあう。
にしても、海族の主人公が頭に怪我をして意識不明になるところまでルールなのだろうか?これは第三回以降も読まないとわからないかな。
対立に関してはさすが伊坂、面白い。「シーソーモンスター」では冷戦時代の米ソ対立と嫁姑対立の大小二つの対立を同列で扱うという離れ業をやってのけて痛快。
「スピンモンスター」では対立による争いが人類を進化させるとの判断を人工知能がくだし、情報操作により主人公二人を窮地に追い詰めるとともに、暴動を誘発、東京を東西に分断する壁の建設が進んでいく様が不気味に描かれる。
これはクラフトエヴィング商會の吉田篤弘による「天使も怪物も眠る夜」に引き継がれていくようだ。
2,3に関してはそれを見つけるのが楽しみの一つでもあるのでここでは伏せるが、3に関しては大体わかった。しかし二作に共通している「アイムマイマイ」という童話は、古代から武士の時代ではとても登場させられないと思うが、そのあたりは第三回配本の天野純希の「もののふの国」でわかるだろう。
螺旋プロジェクト
原始 「ウナノハテノガタ」 大森兄弟
古代 「月人壮士」 澤田瞳子
明治 「蒼色の大地」 薬丸 岳
昭和前期 「コイコワレ」 乾 ルカ
昭和後期 「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎
平成 「死にがいを求めて生きているの」 朝井リョウ
近未来 「スピンモンスター」 伊坂幸太郎
未来 「天使も怪物も眠る夜」 吉田篤弘