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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

キャプテンサンダーボルト(上) / 阿部和重、伊坂幸太郎

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  伊坂幸太郎の小説で唯一未読だった「キャプテン・サンダーボルト」(文庫版上下巻)です。2014年に発表された作品なんですが、伊坂単独ではなく、純文学の阿部和重との合作だったため、なんとなく一番後回しにしていました。

 

  いやあ、早く読んどきゃよかった。先日レビューした「ゴールデンスランバー」顔負けのノンストップアクションで、文章・プロットともに今までの伊坂と何の違和感もなく読むことができました。

  昨年の螺旋プロジェクトといい、イラストレーター川口澄子さんとの合作「クジラアタマの王様」といい、彼はアイデアマンで出版界を盛り上げるための行動力がありますね。

 

  下巻の解説を担当されている佐々木敦氏の解説を参考にこのプランの概要を説明しますと、

・ 「完全合作小説」で、二人の分担を明記しない徹底した共同作業

  確かにいつもの伊坂の文章ではないんですがそれほど違和感はありませんでした。メインプロットを二人で共同して考え、地の文とシリアスなガジェットを主に阿部が、台詞と遊びの部分を主に伊坂が主に担当したんじゃないかな、という気はしましたが、本当に見事に融合していていました。

  また、伊坂のホームグラウンド仙台と阿倍のホームグラウンド山形を主舞台としているのも両方のファンに受け入れられやすい設定です。ちなみに2013年が主舞台で、楽天イーグルスが田中マー君の連勝で奇跡の快進撃をしていた時期でそれが通奏低音となっています。

 

・ ハリウッド映画「サンダーボルト」を意識したバディ・システム

  マイケル・チミノが監督し、クリント・イーストウッド(サンダーボルト)、ジェフ・ブリッジス(ライトフット)が主演した悪党二人組の逃亡劇映画をベースに、相葉・井ノ原というジャニーズを思わせる名前の二人を主人公としています。そして、物語の鍵を握るこの二人が子供時代好きだったTV番組名「鳴神戦隊サンダーボルト」もこの「サンダーボルト」からとられています。

 

  と、小難しいことを書きましたが、読む方はひたすら楽しめばいいわけで、早速行きましょう。

 

世界を揺るがす秘密は蔵王に隠されている! 大陰謀に巻き込まれた小学校以来の友人コンビ。 異常に強い謎の殺し屋と警察に追われるふたり(と犬一匹)は逃げ切れるか。 女友達を助けたばかりに多額の借金を背負う羽目になった相葉の手にひょんなことから転がり込んだ「五色沼水」。それを狙う不死身の(ように見える)冷酷非情な謎の白人が、死体の山を築きながら彼を追ってくる。五色沼といえば蔵王の火口湖、そこは戦後にパンデミックを起こしかけた「村上病」のウィルスで汚染されていて、立ち入り禁止地域になっていた。この水はいったい何なのか。逃亡する相葉は、中学時代の野球部の悪友・井ノ原と再会、ふたりは事態打開のために共闘することに……(AMAZON解説より)

 

  序章でいきなりガイノイド脂肪に注目せよ!かまして読者を幻惑させてくれます。ガイノイド脂肪とは、女性の胸やお尻につく脂肪のことでこれが男を惹きつけるのは言うまでもない。そのガイノイド脂肪ののった桃沢瞳という謎の女性が、2012年8月に新宿のバーで、東京大空襲の折に蔵王へ向かい消息を絶った「地平線の猫」という名のB-29の情報をある男から収集しているところから物語は始まります。

 

  このB-29墜落の3年後、蔵王御釜五色沼)から「村上病」という伝染病のパンデミックが発生、ワクチンで鎮圧されたものの、御釜はそれ以後立ち入り禁止となっています。

 

  さて本筋は2013年7月に移ります。昔の野球仲間で今は借金に追われる二人、かたやいい加減だが人情には厚い相葉は山形で昔の野球仲間を集めてホテルでやばい取引をしようとして、部屋間違いからとんでもない外人組織に狙われる羽目になり、かたやまじめだが勘の鈍かった井ノ原コピー機販売の傍らコピー機から情報を盗んで売りつける裏商売でローン返済を目論むも追いつかない。その一環で桃沢瞳から「鳴神戦隊サンダーボルト」の映画版が突然お蔵入りした裏事情(蔵王でロケしていた)を探るよう依頼されます。

 

  この二人は12年前のある事件がもとで訣別したのですが、追われる相葉と探る井ノ原が仙台の映画館で偶然遭遇したことから、物語は大きく動き始めます。ターミネーターみたいな外人と映画館で一騒動あった後、映画館経営者がマニアックな戦隊ヒーローもの蒐集家と判明、何とお蔵入りした映画のビデオを持っており、その映画を見せてもらった二人はある驚愕の事実を画面内に発見します。

 

  一獲千金を夢見たのもつかの間、どういうわけか相葉は警察に拘束され、挙句に「村上病」で強制入院させられてしまいます。その原因は例の謎の組織の男が持っていた「五色沼の水」にあるらしいのですが。。。

 

  軽快なノリに加えて、懐かしの助っ人外人ポンセと名付けられたカーリー犬(それを相葉がひたすら他の外人の名前で呼び続ける)、謎の組織の恐ろしげな男が使う携帯翻訳アプリの敬語など、笑わせるネタをたんまりとぶち込んだ、それこそハリウッド的ノリで後半に続きます。

 

  ちなみに上巻には物語一時間前の「ボーナストラック」がついていますが、まあホントにおまけ程度です。