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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

昨日がなければ明日もない / 宮部みゆき

⭐️⭐️

  宮部みゆきの杉村三郎シリーズ第五弾。私立探偵になって初めての「希望荘」に続き再び短編集で出版された。昨年末の単行本化なのでようやく現在まで追いついたことになる。

 

 杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザー。『希望荘』以来2年ぶりの杉村シリーズ第5弾!(AMAZON解説より)

 

絶対零度

  中編と呼んでいいくらいのボリュームであるが、ここまでの布石が効いて、杉村三郎というキャラクタ設定・人脈・周囲環境が確立しているので、内容にすっと入っていけてサクサク読める。ようやく私立探偵ものとして安定してきた感がある。

  AMAZON解説にあるように、自殺未遂をして消息を絶った女性の母の依頼により杉村三郎が動き出すのだが、早々に夫婦による自作自演の可能性が出てきてそこには大学の先輩もかんでいることがわかり。。。

  と、今回は速いテンポで話が進む。杉村三郎も多少の駆け引きや嘘は平気になってきているのが好ましい。とはいえ後半には話は陰惨となり、新たな殺人事件が起こり、気が滅入る様な事実が明らかとなる。宮部らしいといえば宮部らしい悪の描き方だが食傷気味ではある。

  ちなみに飛び道具である蠣殻オフィスの木田ちゃんを利用し過ぎ。彼がいれば何でもわかっちゃうというのはミステリの興を削ぐ。

 

華燭

  題名通り、結婚式をめぐる騒動に杉村三郎が巻き込まれる話。同じホテルの同じ階の二つの式及び披露宴がトラブルに見舞われるというのは、いくら何でも無理がありすぎる。宮部の最後の種明かし説明もさすがに説得力がない。

  面白いのは大家さん夫人「ビッグ・マム」が本格的に登場してさすがの貫禄を見せるところ、くらいか。

 

昨日がなければ明日もない

  本のタイトルになっている作品。「名も無き毒」の原田いずみや「楽園」の両親に殺された不良娘を彷彿とさせる、どうしようもない性悪自己中のシングルマザー登場で早速辟易。

 

  我慢して読んでいると中盤から不良娘の「妹」が出てくる。どうしようもない不良の姉と出来のいい妹というのは「楽園」と同じパターン。となると、このシングルマザーも?と思ってしまう。

 

  ここから先はネタバレになるので伏せておく。

 

  以上三作あるが一番最初の「絶対零度」が作品としては一番完成度が高い。あとの二つは今一つで、このシリーズもようやく私立探偵ものとしての位置を宮部作品の中で確立したところなのに、もうマンネリ化してきているのは心配。