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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

2017-01-01から1年間の記事一覧

童貞 / 酒見賢一

⭐️⭐️ 酒見賢一の中国史ものではあるのだが、異色の作品。太古の黄河の氾濫に悩まされるある邑は完全な母系社会で女尊男卑の世界。いきなり治水を成し得なかった男の酷たらしい処刑で始まり、それを見ていたある少年が成長とともにこの邑のしきたりを拒否し、…

木漏れ日に泳ぐ魚 / 恩田陸

⭐️⭐️ 大風呂敷広げっぱなし、エンディング投げっぱなしジャーマンの恩田陸にしては珍しく、あっさりと破綻もなく語り終える物語。明日同居を解消する男女が夜を徹して語りあう二人の複雑な家庭事情と互いの思い、そしてそれにまつわるある変死事件。交互に綴…

美しい星 / 三島由紀夫

⭐️⭐️⭐️⭐️ 三島由紀夫が冷戦時代に書いた異色SF。UFOを見た家族が自分たちが宇宙人だと信じ込み人類啓蒙救済を目指すが、一方同じくUFOを見た仙台の助教授たち三人も宇宙人であることを悟るが逆に人類は滅亡すべきだと考える。両者を仲介する右翼半日教組政治…

祝・Kazuo Ishiguroノーベル賞受賞!

嬉しい、本当に嬉しい!ほとんどの作品を原書・邦訳で読んできたファンとして感無量だ! mainichi.jp

アミダサマ / 沼田まほかる

⭐️⭐️⭐️⭐️ 今映画界はちょっとしたまほかるブームだが、沼田まほかるの長編小説は五作しかない。この作品はその中でも特異な、彼女の僧侶としての宗教観を前面に押し出した作品。悲痛な最終章とそれを救済するエピローグは、まほかる渾身の文章だ。

ホワイトラビット / 伊坂幸太郎

⭐️⭐️⭐️⭐️ 伊坂幸太郎最新作は、クロスカッティング手法を用いた映画的な展開とトリックが面白い。高台の家での人質立てこもり事件に「オリオン座」と「レ・ミゼラブル」を絡める語り口はやっぱ伊坂流。あの男も健在だ!

しあわせの理由 / グレッグ・イーガン、山岸真編・訳

⭐️⭐️⭐️⭐️ グレッグ・イーガンの日本オリジナル短編集「祈りの海」に続く短編集。二冊目でも全くクオリティの落ちないイーガンの凄さ!SFとしては易しく哲学的に深い作品が多いので、SFファンでなくても十分楽しめる。象徴主義の画家クノップフの「愛撫」を題…

ロミオとロミオは永遠に / 恩田陸

⭐️⭐️⭐️ 恩田陸が早川書房のJシリーズに書いた近未来ディストピアSF。そのハチャメチャ振りは、本人が「書いた時はハッピーエンドだと思ったけど文庫版出版の際に読み返してみて暗いので書いた自分がびっくりしている!」というくらいぶっ飛んでいる。なお、…

原田知世35周年記念アニバーサリー・ツアー"音楽と私" in 山形 2017

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ やっぱり原田知世様は最高。バックもこれだけの人たちが来てくれるのはすごい。「ときめきのアクシデント」は予想以上に良かった。「くちなしの丘」は最初アコギで弾き語り、上手くなったね!会場もギネス認定の完全木造世界最大ホールで響きが柔…

美しの神の伝え / 萩尾望都

⭐️⭐️⭐️ これも「ピアリス」と同じく、萩尾望都SF原画展を契機に発売された新刊。全くの新作ではなく以前からある「音楽の在りて」という短編小説集13作品に「クリシュナの季節」「左手のパズル」とショート漫画「いたずら らくがき」の三作を追加したもの。…

刺繍する少女 / 小川洋子

⭐️⭐️ 小川洋子1996年の短編集。十作収められているが、はっきり言って小川洋子としてはそれほどレベルは高くない。ただ、何かを喪失していく人々の、彼女らしいディテイルの書き込みはやはり奇妙で残酷で不条理で美しい。「森の奥で燃えるもの」が一番良かっ…

私は幸せ / 柴田淳

⭐️⭐️⭐️ 柴田淳の新作、オリジナルとしては「バビルサの牙」以来3年ぶり、11枚目となる。シバジュンらしい金太郎飴状態は相変わらずだが、その分安心して聴ける。久しぶりの王子様シリーズ第4弾が入っているのもご愛敬。

ダンケルク

⭐️⭐️⭐️⭐️ クリストファー・ノーラン監督の新作。第二次大戦中の民間船まで動員したダンケルク脱出作戦をコンパクトに多視点のモンタージュ技法で描いた、見事な演出が光る佳作。映像も見事。ポール・ギャリコの「スノー・グース」でラヤダー老人が向かったダ…

魔王 / 伊坂幸太郎

⭐️⭐️⭐️⭐️ 大義なき衆議院解散総選挙が噂される今読んでみるのもいいかもしれない、非政治的人間伊坂の政治的作品。ファシストはまずは正論を吐く。国民は魔王がやってきたのに気づかない。

寡黙な死骸 みだらな弔い / 小川洋子

⭐️⭐️⭐️⭐️ 11の短編が絡まり合いもつれながら織りなす残酷で淫らで静かで美しい弔いの物語。之もまた紛れもない小川洋子の世界である。

氷山の南 / 池澤夏樹

⭐️⭐️⭐️⭐️ 2009-2010年に新聞連載された池澤夏樹の長編小説。南極の流氷をオーストラリアに曳航して灌漑水に利用とする壮大な計画、その船に密航したアイヌと和人のハーフの青年の成長譚、その船の多彩な国籍、宗教を持つ人々が活写され、前半は清々しい雰囲…

ぐるぐる問答:森見登美彦氏対談集 / 森見登美彦

⭐️⭐️⭐️ 先日森見登美彦氏と萩尾望都様の対談を聴く機会に恵まれたが、予想通り、その作品のハチャメチャさに反してとても真面目な方だった。だから対談もそれほど得意ではない感じだったが、なんと14名との対談と自身の今昔問答が収載されている。やはり親友…

ピアリス / 萩尾望都

⭐️⭐️⭐️ 萩尾望都SF原画展をきっかけに初書籍化された、未完の小説。1994年当時多忙を極めていた萩尾望都が文章だけなら書けるが自信はないとのことで「木下司」名義でイラストを萩尾望都担当という事にして角川書店の「The Sneaker Special」という雑誌に4…

君の膵臓をたべたい / 住野よる

⭐️なし 今年読んだ中で最低最悪。周りの読め読め攻撃に負けて読んだのだが、小説の全ての要素において薄っぺらさが尋常ではない。私の専門分野については開いた口が塞がらない酷さ。これがベストセラーで映画化もされるなんて、笑える。

秋期限定栗きんとん事件 / 米澤穂信

⭐️⭐️⭐️ 米澤穂信の「小市民」シリーズ、秋期はなんと高2から高3の秋まで続く、連続放火事件の一年。上巻で焦らせて下巻前半でミスリードさせて中盤でみんな怪しいと思わせて後半で一つ一つ潰していく。潰して作るのが栗きんとん、最後に無事登場。雑魚に復…

夏季限定トロピカルパフェ事件 / 米澤穂信

⭐️⭐️⭐️ 「小山内スイーツセレクション・夏」、依存関係でなく互恵関係という微妙な小鳩と小山内の夏が始まる。当然「甘~い」で済むわけもなく「小市民」対「薬物乱用グループ」のどす黒い夏、さすが米澤、ラノベも暗い。「古典部」の一年がゆるゆると進むの…

春期限定いちごタルト事件 /  米澤穂信

⭐️⭐️⭐️ 米澤穂信のラノベで「古典部」シリーズと両輪をなす「小市民」シリーズ第一弾。小鳩と小山内の新高1コンビは昔は「狐と狼」だったらしいのだが、ある事件を境に改心し、嘉門達郎ではないが小市民として、目立たずおとなしく生きていこうと決心してい…

インシテミル / 米澤穂信

⭐️ 米澤穂信のミステリに関する知識を総動員したクローズドサークル内の12人の殺人ゲーム。実験的作品で出世作で映画にもなったが、やっぱり無意味な殺人劇は性に合わない。

もののあはれ / ケン・リュウ

⭐️⭐️⭐️⭐️ 文庫化にあたり二つに分けられた第2短編傑作集。やっとケン・リュウのSFを堪能できた。でもテッド・チャンやグレッグ・イーガンの影響受けすぎ。これからどれだけオリジナリティを出していけるかだなぁ。そういう意味ではチャイニーズ・スチームパ…

紙の動物園 / ケン・リュウ

⭐️⭐️ アメリカの若手SF作家ケン・リュウの短編傑作集。元々日本独自で編集された同名本が大好評で文庫化にあたり二分割された。こちらはファンタジーが主体。トリプルクラウンの表題作はそれほどでもなかったが、文字占い師(The Literomancer)は題名にも内容…

終わりなき夜に生れつく / 恩田陸

⭐️⭐️⭐️ 前回紹介した恩田陸の長編「夜の底は柔らかな幻」のスピンオフ短編4編。「夜の底」はとんでもない方向に逝ってしまったが、キャラはよく書けていた。そのキャラの昔のエピソードだけあってうまくとまっており、安心して読める。

夜の底は柔らかな幻 / 恩田陸

⭐️⭐️ 短編「イサオ・オサリヴァンを探して」から恩田陸版「地獄の黙示録」に膨らましきれず、日本に舞台を移した作品。在色者というESPが勢揃いしてバトルロワイヤルを繰り広げるかと思いきや、見事に期待を裏切る恩田陸おそるべし。

四畳半王国見聞録 / 森見登美彦

⭐️⭐️⭐️ 究極の森見登美彦「四畳半」「腐れ大学生」シリーズ。もうここまでくると究極の阿呆小説、最初からトライするような無謀な真似はやめたほうがいい。モリミンを極めた人にのみ許される禁断の阿呆神世界。

恋文の技術 / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 美しい装丁と題名に騙されると、大変なことになる、おっぱい満載抱腹絶倒の文通修行集。さすがモリミン、失った読書時間はプライスレス!

きつねのはなし / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 森見登美彦の表の顔が「有頂天家族」のたぬき系でだとすれば、このきつね系は底知れぬ闇を内包した裏面、彼自身が「三男」と呼ぶユーモアゼロのホラー系。同じ京都が舞台だが、芳蓮堂という骨董屋、狐の面、龍の根付け、そして闇に蠢く胴の長いケモ…