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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

2017-01-01から1年間の記事一覧

星に降る雪 / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎⭐︎ カミオカンデのある飛騨を舞台にした短編「星に降る雪」とギリシアのクレタを舞台にした中編「修道院」の二編が収められている。どちらも亡くした友人に縛られている男と女の物語。池澤らしい語り口は健在だが饒舌に過ぎる部分もある。 ちなみにニュ…

光の指で触れよ / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎ 傑作「素晴らしい新世界」の続編で、林太郎が社内不倫をしてしまいアユミが幼い可南子(キノコ)を連れて欧州へ去ってしまうところから始まる破壊と再生の物語。今回も膨大な知識・知見を取り入れた教養小説となっているが、前作のような注意深い中立性…

四畳半神話体系 / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 京都と腐れ大学生を書かせたら右に出るものはない森見登美彦、デビュー作「太陽の塔」の延長線上にある作品。新入生勧誘ビラ四枚のそれぞれを選択した四つの大学生活。結局どうやっても腐れ大学生になる運命なのだが、パラレルワールドが干渉しあい…

きみのためのバラ / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎⭐︎ 2000-2006年に書かれた短編を集めた、世界各地を舞台とした池澤夏樹のコスモポリタンらしい作品。各々はやや浅い感もあるが、最後にテロの時代の旅の難しさと昔のメキシコの長閑な旅を対比させるあたりはさすが。

AX / 伊坂幸太郎

⭐︎⭐︎⭐︎ 伊坂幸太郎の殺し屋シリーズに連なる新刊。今回は昆虫ではないのかと思いきや、AXは、蟷螂の斧の斧のこと。そして今回の殺し屋は名前が兜。今まで以上に強い殺し屋なのだが、伊坂らしいユーモアに欠け、かつ恐妻家という設定があまりうまく機能してい…

宵山万華鏡 / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 「有頂天家族」と表裏の関係をなす森見登美彦流ダーク・ファンタジー。傑作「夜行」 につながる要素満載。京都宵山を舞台とした六編の万華鏡のような物語の中で、金魚の赤が鮮やかに映える、好短編集。

手塚治虫展 @ 神戸ゆかりの美術館

⭐︎⭐︎⭐︎ 改めて手塚治虫先生の偉大な業績に感服した。

怖い絵展 @ 兵庫県立美術館

⭐︎⭐︎⭐︎ www.artm.pref.hyogo.jp 兵庫県立美術館で開催中の「怖い絵展」、中野京子の「怖い絵」シリーズ本の絵画を展示する企画、アイデアがなかなかいいので人気になっている。だから正直なところ大した絵は来ていないのだが、やはりドラローシュの「レディ…

有頂天家族 二代目の帰朝 / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 三部作構想の「有頂天家族」の第二部。赤玉先生の二代目や夷川家の長男、怪しげな幻術師など続々と新キャラが現れ、海星が姿を見せない理由も明らかにされ、あの三階建自家用叡山電車も登場し、やっぱり最後は大騒動に。地の文がしっかりブンガクし…

有頂天家族 / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 森見登美彦の京都ものの人気ナンバーワンシリーズ。ツイッターを見るとそろそろ第三作を書かれるようなので再読。何度読んでも「阿保の血のしからしむる」狸族、下鴨家四兄弟、宿敵夷川家の阿呆兄弟・金閣銀閣、落ちぶれた天狗赤玉先生と人間から…

小野市ひまわりの丘公園

小野市ひまわりの丘公園

静かな大地 / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ コスモポリタン池澤夏樹がついに自分の故郷「静かな大地 アイヌモシリ」北海道と自らのルーツを壮大に描き上げた傑作。和人に迫害され続けるアイヌ人たちとその側に立った淡路からの入植者宗形三郎志郎兄弟の苦闘の生涯と苛烈な運命を、志郎の娘…

祈りの海 / グレッグ・イーガン、山岸真訳

⭐︎⭐︎⭐︎ 現代ハードSFの代表的作家、グレッグ・イーガンの初期の短編集。日本独自の選択のため、扱うテーマや難解さの程度は様々で、得意の物理的分野より病院での仕事経験の方を感じさせる作品もある。しかしクオリティが一定していてイーガン・イズムがブレ…

Fireworks of a Summer Night

a collage made by rehab ward patients.

からくりからくさ / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 「りかさん」の続編にして、梨木香歩文学の一つの到達点ともいえる壮大な作品。蓉子の祖母が他界し、りかさんも喪に服する。蓉子は祖母の家で友人女性三人と暮らすことになる。その家の結界、四人の女性それぞれの結界と繋がり、そして植物、動物の…

りかさん / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎ 梨木香歩流の人形のお話し。りかさんはリカちゃん人形ではなく、日本古来からの「形代(かたしろ)」としての漆黒の髪の市松人形である。「アビゲイルの巻」も良かった。併録の「ミゲルの庭」は「からくりからくさ」と関係してくるのだが、男の私には…

Clouds glitter gold at sunset

ポーの一族 春の夢 / 萩尾望都

⭐︎⭐︎⭐︎ 萩尾望都先生、40年ぶりの「ポーの一族」の新刊。昨年から月刊Flowersに連載された新エピソードが完結した。ご自身が述べられているように絵も顔も変わったが、とにもかくにも新しい物語が読めるのは嬉しい限りだ。

冬虫夏草 / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 梨木香歩の「家守綺譚」の続編。前作ほどの新鮮な驚きはないが、新米文士綿貫君の鈴鹿行を描く梨木さんの瑞々しく美しい文章にはやはり惹かれるものがある。ハードカバーの装丁が美しいのも魅力である。

シャーロック・ホームズ対伊藤博文 / 松岡圭祐

⭐︎⭐︎⭐︎ ラノベの職人松岡圭祐の講談社文庫への単行本書下ろし。ホームズがモリアーティ教授と滝壺に落ちたころ、日本では大津事件が起こっていたという着眼点が面白い。一方伊藤博文が渡英していたころホームズは10歳くらいだったというところを利用したのも…

村田エフェンディ滞土録 / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 梨木香歩の「家守綺譚」の兄弟作品。文士綿貫征四郎の友人村田エフェンディ(先生)が主人公、舞台は土耳古、英国人女性の下宿で起こる色々な騒動と下宿人たちとの交流。そして最後にやってくる痛切な哀しみに胸打たれる物語。

音楽と私 / 原田知世 (通常盤CD)

⭐︎⭐︎⭐︎ 私の大好きな原田知世さんのベスト盤。選曲や知世さんの歌唱には文句なし。ただ、この頃はもう最近ずっとこの人だな。ボサノバ・ギタリストの伊藤ゴローさん。彼がやっぱり全面的にアレンジしてる。「時をかける少女」はちょっと大仰なアレンジで、「…

ディアスポラ / グレッグ・イーガン

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ ハードSFの旗手グレッグ・イーガンの代表作の一つ、文学としてのSFを終わらせるような「史上最も難解なSF」(1997年当時)。宇宙における人類の存在意義や宇宙自体の意味を問うた小説は数あれど、ここまでの理論的高みに達した作品はまずないだろう…

春になったら苺を摘みに / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎ 梨木香歩さんの下宿の女主人ウェスト夫人の思い出に心打たれるエッセイ集。まるで「西の魔女」の英国での生活を読むような心持がする。表紙の素敵な写真は星野道夫氏の手になるもの。

家守綺譚 / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 琵琶湖疎水に近い旧家を預かることになった綿貫征四郎なる駆け出し小説家の書く物語なのだが、サルスベリに懸想されるわ、掛け軸からこの家の息子で同級生で琵琶湖に沈んだはずの高堂がしょっちゅう出てきて平然と話をするわ、河童は出るわ人魚は…

アノニム / 原田マハ

⭐︎⭐︎ 原田マハ版ミッション・インポッシブル、アメリカ現代アートだからハリウッド的ポップさでいいのかもしれないが、ジャクソン・ポロックへの入れ込みように比べれば軽い軽い

すばらしい新世界 / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 風力発電機をチベットの秘境に設置に行く企業人と現地の人や自然や宗教との触れ合いが清々しさを感じさせるとともに、オルダス・ハクスリーの同名ディスユートピア小説に挑戦するかのように、20世紀末の彼の持てる全ての世界観を平易な物語の中に…

黒書院の六兵衛(上)(下)

⭐︎⭐︎ 浅田次郎の幕末ものという事で期待して読んだが、とんでもない期待外れ。上巻退屈、下巻で種明かしなしに唖然。何だこりゃ、といいたい。

骨は珊瑚、眼は真珠 / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎ 「南の島のティオ」「マシアス・ギリの失脚」の後に出版された、池澤夏樹が新たなる方向性を探っているような印象の習作的・実験的な短編集。表題はシェイクスピアの「テンペスト」の「エアリアルの歌」からとられている。

タマリンドの木 / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 池澤夏樹が初めて東南アジアを主舞台に据えた、これまた初めての長編恋愛小説。誠実過ぎるほどの大人同士の恋は、東南アジアの複雑な政治情勢との対峙を迫られる。池澤夏樹の暖かい視線と優れた自然描写が光る作品。