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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

四畳半タイムマシンブルース / 森見登美彦

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   森見登美彦待望の新刊「四畳半タイムマシンブルース」です。まずは長い前置きをば。

 

  先日レビューしたエッセイ「太陽と乙女」にも書かれていましたが、森見登美彦氏はは2011年8月に連載を抱え過ぎて頭がパンクして連載をすべて中断、長期休養を余儀なくされました。復帰後「聖なる怠け者の冒険」、「夜行」と宿題を片付け続け、2018年の「熱帯」を以て中断していた連載の後始末を全て終えました。

 

  ご本人はさぞや晴れ晴れされたでしょうが、やはりファンには昔の腐れ大学生もしくはが戻ってきてほしいという願望があります。本作はその願望を満たしてくれる「四畳半」シリーズの嬉しい復活です。

 

  冒頭リンク先のHPにてモリミー曰く「四畳半神話体系」と森見作品のアニメ版脚本を多く手掛けている上田誠さんの舞台作品「サマータイムマシンブルース」を合体させて16年ぶりの続篇を作ってみたとのこと、「やったね!」と拍手するしかありません。

 

  ましてや、中村佑介さんの手になる、右手に撮影用ハンディカメラを持ちカバンに「もちぐま」をぶら下げたヒロイン明石さんが大々的にフィーチャーされた表紙イラスト(下のリンクのサムネ参照)を見れば買わない手はない。早速読んでみました。

 

  と、ここまでの長い前置きでご理解いただけると思いますが、この作品を楽しむには少なくとも「四畳半神話体系」を読んでおく必要があります。その点ご了承いただき、レビューに入ります。

 

気ままな連中が”昨日”を改変。世界の存続と、恋の行方は!? 水没したクーラーのリモコンを求めて昨日へGO! タイムトラベラーの自覚に欠ける悪友が勝手に過去を改変して世界は消滅の危機を迎える。そして、ひそかに想いを寄せる彼女がひた隠しにする秘密……。 森見登美彦の初期代表作のひとつでアニメ版にもファンが多い『四畳半神話大系』。ヨーロッパ企画の代表であり、アニメ版『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』『ペンギン・ハイウェイ』の脚本を担当した上田誠の舞台作品『サマータイムマシン・ブルース』。互いに信頼をよせる盟友たちの代表作がひとつになった、熱いコラボレーションが実現!

 

  「サマータイムマシンブルース」は(名匠)本広克行監督、(タッパのある)瑛太、(天才)上野樹里主演で映画にもなったくらい有名な青春SFコメディで、大学の「SF研究会」の面々が壊れる前のクーラーのリモコンを取りに(どういうわけかそこにあった)タイムマシンで「昨日」に飛ぶ、そのはちゃめちゃな二日間を描いています。

 

  この「SF研究会」の面々を、オンボロアパート下鴨幽水荘に生息する腐れ大学生(三回生)の私、人の不幸で三杯飯が食える同回生小津、八回生の先輩樋口清太郎、映画サークル「みそぎ」でポンコツ映画を撮りまくる二回生明石さん、「みそぎ」部長の鼻持ちならない城ヶ崎、その恋人で歯科衛生士の羽貫さんといった面々に置換するとどうなるか。

 

  この二つのアホな世界は非常に親和性が高いと思われ、容易に合体し無益なエネルギーが倍増するでしょう。

 

    そしてそこへやってきた「モッサリした」学生田村君。彼はあの青くて丸々としたネコ型ロボットが遠い未来からこれに乗ってやってきたタイムマシンの座席部分を煮しめたように黒光りする古畳に置換したいかにもなマシンで25年未来の幽水荘(まだあったのか!)からやってきたのでした。

 

  さあそこから事態はクーラーのリモコンをめぐって予想に違わず

史上最も迂闊な時間旅行者たちが繰り広げる冒険喜劇! 「宇宙のみなさま、ごめんなさい」(帯のアオリより)

という大騒動に。

 

  そもそもタイムパラドックスなど全く気にしない小津や樋口師匠はともかく、バタフライイフェクト的に宇宙が崩壊すると心配する私や明石さんだって同時同人物重複存在のパラドックスを気にはしていない(遭遇しなければいいと思っている)ようです。

 

  読んでいて哀れだったのはクーラーのリモコン。小津にコーラをこぼされたのを発端に、一日前から持ってこられるわ、某時某所で沼に落とされるわ、大家さんの飼い犬ケチャに掘りあてられるわ、田村君に25年後から持ってこられるわ(まだ存在していたのが凄い)、登場人物以上の大冒険を繰り広げるのでした。

 

  さてこの阿呆なタイムトラベル劇の合間合間に繰り広げられる私の明石さんへのヘタレなアプローチ。まあうまくいくはずもないし、どうせ小津の悪だくみが待ち受けている。

 

  ところがです!このドタバタ騒動にかこつけて私は明石さんと五山の送り火を二人で見る約束を取り付けてしまったのでした、やったぜ「私」!

 

  それでも絶対うまくはいかないのがルーチンなのですが、驚いたことにラスト近く、

 そのとき彼女が「先輩」と囁いた。「五山送り火はどこで見物します?」

なんて腐れ大学生シリーズにあるまじき台詞が明石さんから飛び出すのでした。

 

  その一方で、もう一つの驚愕の事実が判明。私は田村君の鞄の中に古ぼけたもちぐまを見つけてしまいます。田村君を問い詰めたところ、母はやっぱり明石さんでした。

 

  では父は!?『田村』って誰!?

 

  これは読んでのお楽しみ。少なくとも師匠の樋口清太郎ではない。だって25年後も師匠は幽水荘の主として君臨しているのですから(あっ、一つネタバレしちゃった)。

 

  というわけで、久々に「四畳半」系統の新作を読めて幸せでした。次は狸だな。