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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

鍵のかかった部屋 / 貴志祐介

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  新型コロナ禍でこの春は人気ドラマ再放送だらけでしたが、中でも楽しみに見ていたのが「鍵のかかった部屋」で、無表情・ボソボソ一本調子で喋る大野智君とコミカルな演技の佐藤浩市戸田恵梨香、この三人の間合いが絶妙でした。

  今回コミュニティ企画「カドフェス2020」の作品リストにその原作があったので読んでみました。

 

  貴志祐介氏の作品を読むのは初めてで、そのぱさぱさな文章に最初は戸惑いましたが、だんだんと慣れていきました。

 

  もう一点戸惑ったのが、弁護士芹沢豪が出てこないことです。調べてみたら芹沢はTVドラマのオリジナルキャラで、原作では防犯ショップ店長(防犯探偵)の榎本径(大野)と、彼を盗みのプロではないかと疑いながらも行動を共にする弁護士の青砥純子(戸田)のコンビで事件を解決していきます。佐藤浩市演じる芹沢のコミカルなキャラが立っていただけに残念、彼がいないだけで原作は全体に暗いムードでした。

 

  閑話休題、一番気になっていたのがTVドラマのこれでもか的な装飾過剰密室トリック。テレビならではの脚色だったのか、原作がそうなのか、以下四作品で(実質上三作品)でチェックしてみました。なお三作品とも倒叙推理形式で初めから犯人の目星はついていますのでそれに関してはネタバレでいきます。

 

「1:佇む男」(TVドラマ:Episode 1)

  葬儀会社の社長が末期の膵癌で余命があと半年(もあるかい!)、旧知の医師からモルヒネを分けてもらって(日本の麻薬管理はとても厳しいのでその医師即逮捕)、自分の別荘で勝手に自分で静脈注射している(まじかっ!)。なぜできるかと言えばアメリカでエンバーマーの講習を受けているから(をいをい)。

 

という、もう職業柄到底許せない、というか、ありえない設定。これはもう絶対TVドラマの脚本家が勝手に脚色したんだろう、と思っていましたが、、、

 

もろにそう書いてあった...( ゚Д゚)

 

そんな明日にでも死にそうな社長をわざわざ殺さなくてもよさそうなものを風間杜夫演じるワルの専務が殺してしまう、葬儀社ならではのデコラティブで過剰な四次元密室トリック。これも、

 

もろにそのまんまなのであった...( ゚Д゚)

 

  まあこれだけ手が込んでいるとツッコミどころ満載で警察が簡単に自殺で片付けるなんて信じられないのですが、極めつけは

 

社長の体内からは、5グラム以上のモルヒネが検出された

 

。。。。。モルヒネって普通1アンプル10㎎なんですよね。「社長、500本モルヒネいっときますかっ?」って、ありえんでしょ。。。。。

 

「2:鍵のかかった部屋(TVドラマ:Episode 2)

  中村獅童高嶋政宏の手に汗握る演技対決が印象深かった回です。高嶋政宏演じる冷血理科教師が仕掛ける物理トリックは前回よりはまともでしたが、練炭自殺に見せかけた密室の中は部屋中に紙テープがひらひら垂れ下がっており「まともじゃない感」満載でした。

 

  読んでみるとやっぱりそのまんまだったんですが、文字だけで内容を追っていくとそれほど違和感がなく、これはいいと思いました。

 

「3:歪んだ箱」(TVドラマ:Episode 5)

  新築欠陥住宅殺人事件。犯人役は現実世界でも逮捕されてしまった新井浩文でした。いい役者さんで好きだったんですけど。。。まあそれはさておき、この密室トリックは尋常じゃない。まさか、と思っていましたが、

 

もろにそのまんまなのであった...( ゚Д゚)

 

  これだけはネタバレさせてください。建て付けが悪く内側からゴンゴン叩かないと閉まらなくなったドアを屋外からどう閉めるかがこのトリックのキモなんですが、な、な、なんと、反対側のエアコンダクトの外側からピッチングマシンでテニスボールを投げ、ドアに当て続けることによって閉めてしまうという荒技。。。こんなんでバレないと自信満々の犯人。。。

 

  葛城ミサト(cv三石琴乃)風に言えば、、、「アンタバカァ!?

 

「4:密室劇場」(TVドラマ:Episode 6???)

  唖然茫然。。。。。TVドラマのEp6のサブタイトルと同じ題名なので、ジャニーズのお二人が主演のお洒落な雰囲気の劇団密室ドラマの原作の筈なんですが。。。。。ケッタイな三流劇団のバカみたいな話が延々と綴られて作者がふざけてるんだかおちゃらけてるんだか分からないまま殺人事件が起こり榎本の宣言通り30分で解決。

 

なにこれ?

 

  もう降参、ということで調べてみましたら、こういうのをバカミスというらしいです。3本真面目にやってきてラストでこんなの出す?

 

  というわけで、個人的には玉木宏がめちゃくちゃカッコ良かった(トリックの荒唐無稽さもハンパない)「硝子のハンマー」を読みたかったんですが、これは一冊の長編だそうです。ちなみに「防犯探偵榎本」シリーズは文庫版三冊、ハードカバーが一冊あるそうで、このレビューを読んで興味を持たれた方(おらんわなあ)は是非どうぞ。

 

 元・空き巣狙いの会田は、甥が練炭自殺をしたらしい瞬間に偶然居合わせる。ドアにはサムターン錠がかかったうえ目張りまでされ、完全な密室状態。だが防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)の榎本と弁護士の純子は、これは計画的な殺人ではないかと疑う(「鍵のかかった部屋」)。ほか、欠陥住宅の密室、舞台本番中の密室など、驚天動地の密室トリック4連発。あなたはこの密室を解き明かせるか!? 防犯探偵・榎本シリーズ、第3弾!