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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

ちんぷんかん / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️

  しゃばけシリーズ第六作。いきなり若だんなが冥土送りになりびっくりさせるが、全体を通じては、貰い火で焼け落ちた長崎屋の新築と腹違いの兄松之助の縁談の成り行きが語られる。

 

「私ったら、死んじゃったのかしらねえ」長崎屋が大火事に巻き込まれ、虚弱な若だんなはついに冥土行き!?三途の川に着いたはいいが、なぜか鳴家もついてきて―。兄・松之助の縁談がらみで剣呑な目に会い、若き日のおっかさんの意外な恋物語を知り、胸しめつけられる切ない別れまで訪れて、若だんなと妖たちは今日も大忙し。くすくす笑ってほろりと泣ける「しゃばけ」シリーズ第六弾。 (AMAZON解説)

 

鬼と小鬼」 「うそうそ」で初めて箱根に出かけた若だんなだが、一気に冥土へ旅することになる。火事と喧嘩は江戸の華、なんてことを言うが、このしゃばけシリーズも本当に火事が多い。今回はいよいよ長崎屋が貰い火を受けてしまい、若だんなは煙を吸って意識消失、気がつけば三途の川のほとりに立っている。賽の河原で石積みを始めることになるが、心配なのは何故か一緒についてきた鳴家と根付の獅子。この妖達はなんとか現世に返してやりたいと気を揉む若だんなだが。。。

 

  まあそのまま三途の川の河原で永劫に石積みしてたらその後のシリーズが成り立たないわけで、イザナギイザナミの故事に倣って若だんなはこの世へ逃走する、使い古されたネタではあるがそこは畠中さんの腕の見せ所、分かっていても面白い。

 

ちんぷんかん

  これまでも度々登場した上野広徳寺の妖退治の僧寛朝、その弟子となった秋英の話。秋英が広徳寺へ来たのはわずか9歳の折り、武士の三男で食い扶持を減らすために寺へやられたのだった。それから13年、秋英は初めて寛朝から客の相談事の応対をするように命じられる。その相手は和算の先生で娘の縁談をまとめて欲しいという。しかしその先生、実は妖、断った秋英は和算の本の中に叩き込まれてしまう。

  寛朝に最近妖の機嫌が悪いと相談に来ていた若だんなは秋英の悲鳴を聞きつけるが。。。秋英の意外な才能が明らかとなる一方、若だんなの腹違いの兄松之助の縁談話が持ち上がっていることを提示してこの話は終わる。

 

男ぶり

  大妖皮袋であった祖母おぎんの血を引く母おたえの失恋の話。おたえも大妖の血を引くだけあって、世間の常識からずれているところがあり微妙に人の心が読めない。一方でおぎんの美貌も引き継いでいるので、縁談話は引きも切らない。そんな折、ある大店の次男坊の男ぶりに惚れてしまい、その次男坊からの珍妙な相談事を引き受けてしまう。若だんなの世話を焼く手代ばりにおたえの世話を焼く守狐も出しゃばってきて問題は解決するが、その結果その男から疎まれて恋敵にとられてしまうことに。

 

  その時に慰め励ましてくれたのが、今のご主人藤兵衛、当時は使用人の藤吉。それで良かったと若だんなはしみじみ思うのであった。ついでに

 

しかし長崎屋の親馬鹿、守りの妖馬鹿は、先代からの伝統だね

 

とも。

 

今昔

  ようやく火事で消失、再建していた長崎屋が完成。宴の賑やかな雰囲気で話が始まる。開店祝いセールの最中、離れでは若だんなと妖たちも大宴会。同じく焼けてしまった紅白粉屋のお雛さんがついに厚化粧をとったと屛風のぞきがめでたい話を披露すれば、猫又もおしろも若だんなの腹違いの兄松之助の縁談が決まりそうだ、と報告。相手は米屋の大店、玉乃屋のお嬢さんと申し分なし。だけどその話になると若だんなの顔色が冴えなくなる。

  それもそのはず、兄が出てしまえば自分がしっかりしなきゃと、開店大セールで大賑わいの店を手伝おうとしたら例によって例のごとく大甘の父と手代二人にダメ出しをくらって離れに戻されてしまったのだった。

  そんな最中に白い紙が若だんなの顔を塞ぎ、若だんなはまたまた死にかける。貧乏神の金次が現れてことなきを得るが、その紙は式神だった。それを離れに寄越して若だんなを殺そうとした極悪陰陽師がいる、と手代を始め妖たちは大騒ぎに。そして珍しく仁吉(大妖白沢、慎重派)と佐助(大妖犬神、積極派)の意見が食い違う。

 

  そして話は松之助の縁談先の玉乃屋を巻き込む騒動になっていき、更には金次のそろそろ貧乏神として誰かに取り付こうという思いも絡んで。。。と、久々に妖たちが大活躍する面白い話となっている。

 

はるがいくよ」 

  本巻の白眉、シリーズ中でも屈指の名作ではなかろうか。桜の花びらの散る様に寄せて、若だんな一太郎松之助三春屋栄吉、そして花びらの精である小紅との別れが語られる。

  松之助は前作の玉乃屋の次女お咲と結婚し分家する。若だんなが花向けに最後に選んだのは「空のビードロ」(「ぬしさまへ」所収)の思い出の品。栄吉は三春屋を継ぐため修行に出ることになる。そしてなんとか小紅を長生きさせたいと願った若だんなだったが、、、畠中さんは若だんなの小紅への思いと、手代二人の若だんなへの思いを重ね合わせ、見事な結末へと持っていく。

 

  序の出だしが、この作品の美しさを象徴している。素晴らしいものを読ませてもらった。

 

  暖かい春の一日であった。

  あるか無しかの風が柔らかい。ゆるく吹いては、草の新芽を撫でて過ぎてゆく。風は淡い色の花びらを数多空に舞い上げ、そこここへと運んでいた。