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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

ずえずえ / 畠中恵

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  しゃばけシリーズ、第13巻。今回は栄吉や若だんなの嫁取り騒動に絡めて、若だんなの将来についての展望が語られる。妖と人間との時間感覚の差異はこれまで何度も触れられきて、特に「ちんぷんかん」収録の「はるがいくよ」などはシリーズ中屈指の傑作であったが、よりシリアスに今回はそのテーマが取り上げられ、いよいよこのシリーズにも転機が訪れた感がある。

 

若だんなの許嫁が、ついに決まる!?幼なじみの栄吉の恋に、長崎屋の危機…騒動を経て次第に将来を意識しはじめる若だんな。そんな中、仁吉と佐助は、若だんなの嫁取りを心配した祖母のおぎん様から重大な決断を迫られる。千年以上生きる妖に比べ、人の寿命は短い。ずっと一緒にいるために皆が出した結論は。謎解きもたっぷり、一太郎と妖たちの新たな未来が開けるシリーズ第13弾。

 

栄吉の来年

  栄吉が見合いをした、という情報を貧乏神金次が若だんなの元へ持ってきた。この時代、見合いをしたということはほぼ間違いなく結婚するということ。何の相談もなかった若だんなは驚きと戸惑いを隠せない。ただ、相手がわからないので早速妖たちを使嗾するが、栄吉が若い女性にビンタを食らっていたという情報と、見合い相手らしい女性が他の男性と親密に話し込んでいたという情報がもたらされる。

  どちらが本当なのか?どうもその二人は同一人物でなく、姉妹であり、その姉の方が見合い相手らしいとわかるが、他の男と親密なことを栄吉は知っているのか?若だんなは栄吉と対峙するが。。。

  ネタバレはなしだが当然ハッピーエンド、栄吉の将来が見えてくる一編である。

 

寛朝の明日

  ひょんなことから上野広徳寺の妖封じの名僧寛朝は天狗の黒羽坊に小田原の人喰い妖退治を依頼され出向くこととなる。若だんなは付き添えず、秋英を連れて行くわけにもいかず、猫又のおしろ(手前の戸塚宿での猫又たちからの情報収拾係)と例の悪夢を食べるバクの本島亭馬久(夢の中での若だんなへの報告係)がお供について行くこととなる。ついでに鳴家が二匹紛れ込む。猫じゃ猫じゃの戸塚宿までは快調な旅であったが、次の夢の中ではおしろ、馬久がどこかに閉じ込められ、寛朝は肝を食われそうになる危機に瀕している。

  寛朝、おしろ、馬久、それぞれに特徴を活かした上手い筋運びで、やはり最後は若だんなの知恵と機転が全てを解決する、安定路線ではあるが、かなり無理のある話。「翼の折れた天狗」黒羽坊はこの後上野寛永寺寿真(寛朝と並ぶ妖封じの名僧)の元に預けられ、僧侶「黒羽」としての道を歩むこととなる。という事はもちろんシリーズの常連となるわけである。

 

おたえの、とこしえ

  若だんな一太郎の母、大妖おぎんの血を引くおたえが今回の主役。と言っても、結局は若だんなの知恵が長崎屋の窮地を救うわけだが。

  驚いたのは、若だんなが上方まで出かけたこと。「うそうそ」で箱根へ出かけるだけでも大騒動、本作でも小田原までは無理だから馬久を使嗾したというのに、このお手軽さは何?

  しかも七福神の三人と貧乏神金次が大阪の米相場で大暴れって、あっちゃいけないことではなかろうか。

  まあもちろん若だんながうまくカタをつけるわけではあるが、これまでの設定を何気なく根底から覆しているし、ちょっとやりすぎの感が否めない。

 

仁吉と佐助の千年

  前作からの続きで若だんなの株が上がり、縁談が次から次へと舞い込む。一方仁吉は神の国にいるおぎんに呼ばれ、佐助は四国に頼まれごとで出かける。

  先の述べたシリーズ中屈指の名作「はるがいくよ」のテーマであった妖と人の寿命の差をよりシリアスに突きつけてきた作品で、若だんなと手代二人の今後を問うている。また、若だんなが嫁を取れば離れに巣食う妖や貧乏神はどうするのか、という問題も当然出てくる。

  私が「ねこのばば」中の「花かんざし」で今後も出てきそうと書いたあの子がここまで予想通りと言うのは、敢えて言えば安易に過ぎないか

 

妖達の来月

  先の三作で頑張り過ぎた若だんな一太郎は皆の予想通り、病で寝付くことにあいなって最後の物語は始まる。同じく前作からの引継ぎで、若だんなが建てた隣の一軒家に貧乏神金次、ばくの馬久(ばきゅう)、猫又のおしろが移ることになり、その引っ越しと妖勢ぞろいの中での奇怪な盗難事件の顛末が語られていく。

  金次を怒らせたらどうなるか、先の大阪米相場より冷たい風が吹きわたるあたりは面白い。当然犯人は若だんなの策略で捕まるわけだが、この話の主眼はもちろんそこではない。今回のシリーズのテーマは「転機」、本編では妖達と若だんなの今後についてが真剣に語られているのである。

 

  離れの主の若だんなとて、妖達と同じく自分が生きてゆく事に苦労している一人なのだ。これから商人としてやっていけるようになるか、腹をくくらねばならない日々も待っている。その肩に載れば楽だからと、妖達が皆若だんなへ頼ったら、病があっという間に、若だんなを江戸から連れ去ってしまうだろう。

 

  のほほんとした話を語っておいて締めるところは締める、畠中さん、やはりシリーズのツボを心得ておられる。