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備忘録、採点表

人工知能の見る夢は AIショートショート集

⭐️⭐️⭐️

  「本が好き!」でefさんがレビューされていて、興味を惹かれて読んでみた。人工知能学会の学会誌である『人工知能』に掲載されたSFショート・ショートをテーマ別に編纂したアンソロジーとなっている。

 

日本を代表するSF作家たちが人工知能を題材にショートショートを競作し、それを「対話システム」「神経科学」「自動運転」「人工知能と法律」「環境に在る知能」「人工知能と哲学」「ゲームAI」「人工知能と創作」の8つのテーマ別に編集、テーマごとに第一線の研究者たちが解説を執筆した画期的コラボ企画。“AI作家"の新作「人狼知能能力測定テスト」も収録。文庫オリジナル。(AMAZON解説より)

 

  27のショートショートが収録されている。新井素子が二作入っている以外は全て一作家一作で作風はバラバラ。よってその成否は編集の巧拙に左右されるが、人工知能学会テーマを8つ設けて、それぞれに連載された作品を選別、その分野の代表的研究者による解説をつけた。これが成功してとても読み易くまた啓蒙的なアンソロジーになっている。efさんがおっしゃるように解説が素晴らしいし、最後にAIが「創作」したショートショートを掲載したのもこのプロジェクトの最終目標の一つを具現化しており興味深い。

 

  さて掲載された作品であるが、AIに関して最新の情報・知見が盛り込まれていて、知的好奇心をくすぐられる。解説もかゆい所に手が届いている。

  ただ、ショートショート形式のSFということで、プロットの練り方ひねり方、オチのつけ方などにどうしても星新一さんの影がチラつく。私見ではあるが、星的作品八割、非星的作品二割と言う印象。

  後者ではっきりしているものを二つ挙げてみる。んべむさしチューリング・テストを題材とした「202x年のテスト」は、オチをつけないという手法であえて星的手法を避けたという気がする。樺山三英の「あるゾンビ報告」はひたすら一本調子の語りという形式で哲学的ゾンビを扱っている。どちらも意欲作ではあるのだが率直に言って面白くはない。

  星的なものを否定する、という事は面白みを否定することであるのだ、と改めて感じさせる。

  惜しいのは高野史緒の「舟歌」。題名はショパンバルカローレから来ている。芸術を鑑賞するAIというテーマはとても斬新なのだが、結局AIがなにをしたというところが書かれておらず読者の想像に任されている。よって自分のクラシックの知識をひけらかしただけでショートショートの体をなしていない、という情けない結果に終わってしまった。

 

  さて、efさんに「理系」としての感想をリクエストしていただいたのだが、わたしの専門分野に該当するテーマは「神経科」である。この分野は、まだSF世界と現実の乖離が大きく、SFがまだSFとしてのんびり眺めていられる。解説では2020年には人間の脳全体をシミュレーションするために必要なスーパーコンピューターが開発されると予想されているそうだが、それで人工脳がすぐできるわけではない。

 

  それよりも現代医学において喫緊の問題は「AIと法律」のカテゴリーであろう。例えば診断能力においてすでにAIは既に人間医師を凌駕しているとさえ言われているが、ではAIの下した診断を医師が自己判断よりも優先してそれが間違っていた場合だれが責任を取るのか。

  また、今最先端の医療ロボット「ダ・ヴィンチ」、これは現時点では遠隔操作ロボットに過ぎないが、将来的にAIが自律的に手技を選択して手術を進めるようになれば、その結果が良くなかった場合それは不可抗力なのか失敗なのか、訴訟になった場合誰が責任を取るのか。

  不確定要素があまりにも多く絶対的正解のない医学の世界では難しい問題である。

 

  その他ブレインストーミング的に、漠然と脳裏をよぎった、今流れているCM(2019年3月現在)を二つ挙げておこう。

 

  一つはトヨタの新型SUPRAのCM。香川照之トヨタ自動車社長の「モリゾウ」こと、豊田章男氏にインタビューする宣伝。根っからのクルマ好きで自身スバル車でラリーもされているモリゾウ氏熱く語って曰く

アメリカ大陸には昔1500万頭の馬がいた。今はそれが車に取って代わられた。馬で残っているのは競争馬。だから車で最後まで生き残るのはスポーツカー」

そう熱く語っている一方で自動運転に本格的に取り組んでいるのもトヨタなのだが。本作品集でも「自動運転」の項では、AIによる自動運転化に肯定否定相反する思いが感じられる。やはり「人間性」最後の牙城として自分で運転したい思いがあるのだろう。

 

  もう一つは家庭教師のトライの宣伝。「OK Google」をもじって、ハイジがおじいさんに「OKおじいさん」、犬のヨーゼフに「OKヨーゼフ」と語りかける。おじいさんのほうは、Google HomeやSiriなどが聞き取れなかった時と同じ反応をする。犬の方は我関せず。考えようによってはなかなか深いCM。

  本作品集では「対話システム」のカテゴリーだが、ビッグデータ解析や音声認識、発音等々この本の出版時よりもはるかに進んでいて、こんなCMが当たり前に作られるようになって誰も違和感を感じない。こうなると、出版までに結構時間を要する作家が追いついていけないし、読者も2、3年前の作品だと違和感を感じてしまう。SF作家受難の時代である。