Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

終わりなき夜に生れつく / 恩田陸

⭐️⭐️⭐️

 前回紹介した恩田陸の長編「夜の底は柔らかな幻」のスピンオフ短編4編。「夜の底」はとんでもない方向に逝ってしまったが、キャラはよく書けていた。そのキャラの昔のエピソードだけあってうまくとまっており、安心して読める。

夜の底は柔らかな幻 / 恩田陸

⭐️⭐️

  短編「イサオ・オサリヴァンを探して」から恩田陸版「地獄の黙示録」に膨らましきれず、日本に舞台を移した作品。在色者というESPが勢揃いしてバトルロワイヤルを繰り広げるかと思いきや、見事に期待を裏切る恩田陸おそるべし。

恋文の技術 / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

    美しい装丁と題名に騙されると、大変なことになる、おっぱい満載抱腹絶倒の文通修行集。さすがモリミン、失った読書時間はプライスレス!

きつねのはなし / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

  森見登美彦の表の顔が「有頂天家族」のたぬき系でだとすれば、このきつね系は底知れぬ闇を内包した裏面、彼自身が「三男」と呼ぶユーモアゼロのホラー系。同じ京都が舞台だが、芳蓮堂という骨董屋、狐の面、龍の根付け、そして闇に蠢く胴の長いケモノなどのキーアイテムで緩くつながった四編は、読むものを底知れぬ闇に引き込んでいく。

星に降る雪 / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎⭐︎

   カミオカンデのある飛騨を舞台にした短編「星に降る雪」とギリシアクレタを舞台にした中編「修道院」の二編が収められている。どちらも亡くした友人に縛られている男と女の物語。池澤らしい語り口は健在だが饒舌に過ぎる部分もある。

 

 ちなみにニュートリノをとらえるための施設、カミオカンデの中で光るチェレンコフ光を見ることはハイゼンベルグの矛盾(闇を見ようとしても、見えたら闇でなくなる)で不可能だが、カミオカンデ自体は見ることができる。私は以前アンドレアス・グルスキーの写真展でみたカミオカンデに魅せられた。そのポスターは今でも職場に飾ってある。

光の指で触れよ / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎

傑作「素晴らしい新世界」の続編で、林太郎が社内不倫をしてしまいアユミが幼い可南子(キノコ)を連れて欧州へ去ってしまうところから始まる破壊と再生の物語。今回も膨大な知識・知見を取り入れた教養小説となっているが、前作のような注意深い中立性を失っており、やや危険な部分もある。人物もそのために動かされている印象があり、前作ほどの魅力がない。やや不満の残る残念な出来だった。

四畳半神話体系 / 森見登美彦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

京都と腐れ大学生を書かせたら右に出るものはない森見登美彦、デビュー作「太陽の塔」の延長線上にある作品。新入生勧誘ビラ四枚のそれぞれを選択した四つの大学生活。結局どうやっても腐れ大学生になる運命なのだが、パラレルワールドが干渉しあい大騒動になるのが秀逸。

きみのためのバラ / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎⭐︎

2000-2006年に書かれた短編を集めた、世界各地を舞台とした池澤夏樹コスモポリタンらしい作品。各々はやや浅い感もあるが、最後にテロの時代の旅の難しさと昔のメキシコの長閑な旅を対比させるあたりはさすが。

 

AX / 伊坂幸太郎

⭐︎⭐︎⭐︎

    伊坂幸太郎の殺し屋シリーズに連なる新刊。今回は昆虫ではないのかと思いきや、AXは、蟷螂の斧の斧のこと。そして今回の殺し屋は名前が兜。今まで以上に強い殺し屋なのだが、伊坂らしいユーモアに欠け、かつ恐妻家という設定があまりうまく機能していない。グラスホッパーやマリアビートルのお馴染みの殺し屋たちの名前も次から次へ出てくるが有機的に噛み合うわけでもない。今ひとつ切れがなかったのが残念な新刊だった。