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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

家守綺譚 / 梨木香歩

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  琵琶湖疎水に近い旧家を預かることになった綿貫征四郎なる駆け出し小説家の書く物語なのだが、サルスベリに懸想されるわ、掛け軸からこの家の息子で同級生で琵琶湖に沈んだはずの高堂がしょっちゅう出てきて平然と話をするわ、河童は出るわ人魚は出るわ、白木蓮の蕾が開いたら白竜の子が天に昇るわ、に騙されそうになって飼い犬のゴローに助けてもらうわ、竜田姫竹生島浅井姫に挨拶に来るわ、啓蟄の候に小鬼フキノトウを取りに来るわ、全く人を喰った話ばかりである。

  しかし四季折々の草花を題名にした二十八の物語はどれも味わい深く、そしてその文章の美しいこと美しい事。夏目漱石の「夢十夜」が好きな人にはたまらない。梨木香歩の才能全開である。

すばらしい新世界 / 池澤夏樹

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  風力発電機をチベットの秘境に設置に行く企業人と現地の人や自然や宗教との触れ合いが清々しさを感じさせるとともに、オルダス・ハクスリーの同名ディスユートピア小説に挑戦するかのように、20世紀末の彼の持てる全ての世界観を平易な物語の中に集約した見事な作品。彼の原子力発電への不安は11年後に現実のものとなる。

 

 

黒書院の六兵衛(上)(下)

 

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  浅田次郎の幕末ものという事で期待して読んだが、とんでもない期待外れ。上巻退屈、下巻で種明かしなしに唖然。何だこりゃ、といいたい。

 

骨は珊瑚、眼は真珠 / 池澤夏樹

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「南の島のティオ」「マシアス・ギリの失脚」の後に出版された、池澤夏樹が新たなる方向性を探っているような印象の習作的・実験的な短編集。表題はシェイクスピアの「テンペスト」の「エアリアルの歌」からとられている。

タマリンドの木 / 池澤夏樹

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池澤夏樹が初めて東南アジアを主舞台に据えた、これまた初めての長編恋愛小説。誠実過ぎるほどの大人同士の恋は、東南アジアの複雑な政治情勢との対峙を迫られる。池澤夏樹の暖かい視線と優れた自然描写が光る作品。 

 

天子蒙塵 第二巻 / 浅田次郎

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  浅田次郎の「龍玉」シリーズ五作目も第二巻。いよいよ満州立国を柱に物語は大きく動き始め、舞台も満州・北京・東京と多彩に展開され、「マンチュリアン・リポート」の主要人物も顔を見せた。これでなくっちゃ、と思わせてくれる浅田節ついに復活!

村上春樹は、むずかしい / 加藤典洋

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  硬軟双方持ち合わせる文学評論家加藤典洋が、村上春樹のデビューから2015年執筆時点までの内的変化と小説の変容について分析している。リアルタイムで知っているものからすると突っ込みどころは結構あるが、自分なりの春樹観を持って読む限り良書ではある。

 

天子蒙塵 第一巻 / 浅田次郎

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 浅田次郎久々の「龍玉」シリーズ、第五作目。まずは「蒼穹の昴」「中原の虹」の懐かしの主要メンバー顔見世で、ラストエンペラー溥儀と側室の世紀の離婚劇が描かれる。

マリコ/マリキータ / 池澤夏樹

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池澤夏樹の五編からなる短編集。表題作はグアム島が舞台で個人的な思い出とリンクして楽しかったが、真の傑作は最後の「帰ってきた男」。短編ハードSFとしてかなりいい線いってると思う。