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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

ぬしさまへ / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️

   「しゃばけ」が好評で書かれた続編、しゃばけシリーズ第二巻。短編集だが、粒そろいの人情噺が並んでおり、結構ホロリとさせられた。「しゃばけ」では全くネタバレさせないように気をつけたが、この巻以降はある程度のネタバレをお許しいただきたい。

 

 きょうも元気に(?)寝込んでいる、若だんな一太郎の周囲には妖怪がいっぱい。おまけに難事件もめいっぱい。幼なじみの栄吉の饅頭を食べたご隠居が死んでしまったり、新品の布団から泣き声が聞こえたり…。でも、こんなときこそ冴える若だんなの名推理。ちょっとトボケた妖怪たちも手下となって大活躍。ついでに手代の仁吉の意外な想い人まで発覚して、シリーズ第二弾、ますます快調。(AMAZON解説)

 

ぬしさま」 金釘流解読不能の恋文が男前でモテモテの手代仁吉こと大妖白沢(はくたく)に届く。もちろん仁吉には心当たりがない。そんなおり、火事に紛れて小間物屋の跡取り娘が殺される。その娘が恋文の主らしいのだが、妖連中の調べでは心優しい気前の良い娘という評判と、女中相手に威張りちらす性悪という評判の双方があることがわかる。悪筆であったかどうかも疑わしい。そのような情報を整理し、若だんな一太郎がたどり着いた真相とは。真犯人の方に肩入れしたくなる悲しい人情噺。

 

栄吉の菓子」 栄吉とは長崎屋の隣の菓子屋三春屋の跡取り。病弱だった一太郎のたった一人の幼馴染で大の仲良し。真面目で性格の良い青年なのだがただ一つの欠点がある。それはいつまでたっても菓子職人としての腕が上がらないところ、特に餡を作らせるとどうしたらこんなに不味くなるのかというくらい下手で妖たちにも笑いのネタにされている。なかなか面白いキャラクタ設定なのだが、本人にしてみれば深刻な悩み。

 

  そんな折りも折り、栄吉の作った菓子を食べて常連客のご隠居が死ぬ。これまた常連キャラの日限(ひぎり)の親分、岡っ引きの清七が取り調べを行うが。。。このご隠居、籤で財を成した成金で四人の性悪の血縁者がその財産を狙っていたことがわかる。ちょっと話に無理はあるが、栄吉の菓子にいつもイチャモンをつけて三春屋に居座っていたこのご隠居の真意にホロリとする。

 

空のビードロ」 本巻の白眉にして、一太郎の腹違いの兄松之助の悲しい運命の物語。松之助の境遇についてはネタバレになるので割愛するが、とにかく長崎屋にはおられず、外へ奉公に出た身。一太郎がその松之助に会いたいという思いが「しゃばけ」のメインテーマの一つであった。その前作の最後で、松之助の奉公先は火事で焼失する。幸い松之助は先に店を出ていて無事だったが、後日行く先がないから置いて欲しいと突然長崎屋に現れる、というところで終わっていた。

 

  本作はその経緯を松之助の側から描いた、極めて優れた短編である。大人の身勝手に翻弄された松之助がそれでもまっすぐな好青年に育っていたのも嬉しいが、それを迎え入れる優しい一太郎との最後のシーンには涙を禁じ得ない。

 

四布の布団」 相変わらず病弱で寝込んでいる一太郎だが、新調した布団から若い女の泣き声が聞こえる。おまけに手代が五布(いつの)仕立てと注文したはずが四布(よの)だった。一太郎の制止も聞かず、大甘やかししている父と手代二人は怒り心頭、布団を作った繰棉問屋へ談判へ出かける。この問屋の主人がまた大変な癇癪持ち。その怒鳴り声に一太郎は失神してしまう。後半はその主人の癇性と若い女の泣き声との因果関係を一太郎が解き明かしていく展開。一太郎の推理能力が冴える一本。

 

仁吉の思い人」 相変わらず寝込んでいる一太郎の慰みに、大妖白沢こと仁吉が自身の恋の物語を聞かせる趣向。大妖だけにスケールが大きい。平安時代に始まる千年の恋の物語である。その思い人の正体が明らかとなった時の一太郎の衝撃たるや想像に余りある。

 

虹を見し事」 いつもは大甘やかしに甘やかす手代二人、大妖の佐助(犬神)と仁吉(白沢)が素っ気ない。しかも一太郎の部屋に住み着く妖たちが全く姿を見せない。自分は誰かの夢の中に迷い込んだのだ、と気づく一太郎だが、はて、その夢の主とは誰か?種明かしの後にもう一捻り、哀しい事実が判明するのが上手い構成。また、松之助が長崎屋の奉公人となって元気に働いているのが嬉しい。

 

というわけで、粒選りの好編が詰まった、シリーズ第二作としては上々の出来の一冊。