Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

ねこのばば / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️

  しゃばけシリーズ、第三巻。ますます好調ではあるが、二冊連続して短編集、しかも同工異曲的になってきており、だいたい展開が読めるようになってきた。次あたり、そろそろ本格長編も読みたいところ。

 

お江戸長崎屋の離れでは、若だんな一太郎が昼ごはん。寝込んでばかりのぼっちゃんが、えっ、今日はお代わり食べるって?すべてが絶好調の長崎屋に来たのは福の神か、それとも…(「茶巾たまご」)、世の中には取り返せないものがある(「ねこのばば」)、コワモテ佐助の真実の心(「産土」)ほか全五篇。若だんなと妖怪たちの不思議な人情推理帖。シリーズ第三弾。(AMAZON解説)

 

茶巾たまご」 病弱で寝込むのが常の若だんな一太郎、どういうわけか、妙に体調が良い。おまけに新しく売り出した薬が売れるわ売れるわ、小箪笥から金子が出てくるわ、食べ物の中から金の粒が出てくるわ、これはきっと福の神がやってきたに違いない、とあやかしを含めてお馴染みの一同は大騒ぎ。でも最近長崎屋にやってきたのは、金次という使用人ひとり。

 

  その金次という男、ひょんなことから海苔問屋にいられなくなって一太郎が引き取ってやったのだが、どうしたらこんなに貧相に見えるのかわからないような外見。しかもその海苔問屋は悪いこと続きで屋台骨が傾いているほど。どう考えても福の神ではない。そんな折り、その海苔問屋の娘さんが殺されたとの連絡が入り、早速一太郎は鳴家(やなり)たちを使嗾して真相を探り始める。

 

 この殺し、人情噺にしてはどす黒い意図でなされたものだった。ちょっと後味の悪い話だが、金次の正体が明らかとなるエピローグでちょっとほのぼの。

 

花かんざし」 久しぶりに大妖(おおあやかし)の手代、佐助と仁吉の二人からお許しが出て、外出した若だんな一太郎。例によって例のごとく、妖どももついてきて賑やかなご一行。で、今回は於りんという五つの女の子に遭遇。この女の子、妖が見えるらしく、鳴家(やなり)の一匹を捕まえて離そうとしない。一行の困り果てぶりはおもしろいが、なんとこの子、迷子だと判明。とりあえず長崎屋に連れて帰ってみれば、大妖の祖母の血をひく母おたえ、さすが世間の常識とは感覚がずれており、この子をいたく気に入り花かんざしをかざしたり、似合う服を見繕ったり、やたら世話を焼いて一太郎を辟易させる。岡っ引きが登場してさあ本格的に探そうということになった途端、於りんの曰く、

「帰ったら、於りんは、殺されるんだって」

この剣呑な訴えの真意、真相に一太郎と妖たちが迫っていく物語。於りんの母の病にまつわる結末はほろ苦いが、この於りんちゃん、また出てきそうな予感。

 

ねこのばば」 表題作、さすがに力が入っている。落語の三題噺じゃあないが、冒頭若だんなの周囲で起こった三つの不可思議な出来事を提示して、それを複雑に組み合わせていき、上野は広徳寺寺内で起こった殺人事件の真相を明かしていく話。

 

  猫又より恐るべきは、広徳寺の僧寛朝。以前若だんなが高額の寄進と引き換えに魔除けの護符を書いてもらった僧侶です。この僧、妖を恐れないばかりか、見破る能力にも長けている。実際、若だんなの護衛役でついてきた仁吉と佐助も一目で妖と悟ってしまう。

 

  ストーリーは込み入っているが、これだけ凝りすぎると終盤やや退屈。それよりもこの寛朝を今後のシリーズでも登場させようという意図があるのでは、と思わせる。

 

産土」  うぶすな、と読ませまる。長崎屋先代の妻、一太郎の祖母は狐系の大妖、皮袋(かわぶくろ)という超大物。その祖母が病弱な一太郎のためにつけた二人の手代が佐助(犬神)仁吉(白沢)。前巻では仁吉の過去、千年の片思いの物語が語られたが、本作はいよいよ犬神佐吉の出番。

 

  その出生の秘密がいきなり明らかにされるが、なんとこの犬神、産みの親は弘法大師こと僧空海なのだ。仁吉と同じく平安時代から生きてるのかよ、さすが妖。ただ、仁吉とちがってこの犬神、独り身で放浪の生活が続いていた。そんなある夜、助けた男に拾われて店の手代となり働き始めるが、店の取引先がどういうわけか次々とつぶれ始め、ご主人も悩んだ挙句「信心」に走り始め、若だんなも引きずり込まれ、、、。

  妖の匂いを嗅ぎつけた佐助はこの新興宗教集団と対決することになる。全体にダークな雰囲気の中で話は進み、救いようのない結末に。。。てっきり夢オチかと思っていたが、畠中恵は意外なほどうまいミスリードをやってのけた。異色で面白い一本。

 

たまやたまや」 再び通常の人情噺。今回は一太郎の幼馴染で栄吉の妹、お春にまつわるお話。このお春、一太郎のことをずっと想っているが、そろそろ嫁に行かないと行き遅れになってしまう。そんな折に舞い込んだ縁談話。

 

  栄吉から、暗にお春のその思いをあきらめさせてやってくれ、と頼まれた一太郎、さっそく身辺調査に乗り出すが、相手の男、身元はしっかりしているものの至って評判が悪い。おまけに恋人までいるらしい。ひょんなことからその男と一緒に武家屋敷の土蔵に閉じ込められる羽目になり、ひと騒動持ち上がる。

 

  武家だろうがなんだろうがお構いなしの仁吉と佐助の大活躍と一太郎の名推理、まあ予定調和の世界だが、一太郎とお春の幼い頃の思い出と最後の花嫁姿にほろりとする一編であった。