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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界~女子美での講義より~

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   ども、久々の荻洗会(萩尾望都洗脳布教委員会)です。今回は女子美術大学での講義・対談集で、題して「紡ぎつづけるマンガの世界~女子美での講義より」。まとめておられるのは内山博子女子美術大学教授で、萩尾先生を女子美に2011年に客員教授として招き、半年に一回の講義、対談をセットアップし司会もされたのがこの内山先生だそうです。

 

  ご自身でも書いておられるように萩尾先生はあまり対談は得意ではないのですが、内山先生の人選の見事さで細密なヨーロッパ歴史絵巻から独創的なSFまでマンガ人生を振り返り、創作活動の源泉を語る面白い内容となっていました。

 

第1章 宇宙飛行士・山崎直子さんとの対談:宇宙・女性・漫画

  宇宙飛行士とはナイスな人選!当然ながら「11人いる!」「スター・レッド」などが取り上げれられています。この章が一番面白かったです。特に山崎さんの話でなるほどと思ったのは、宇宙に行くと地球は見下ろすものだと思っていたのが全くの逆で、宇宙船からは地球は見上げることになるという話。

 

第2章 トランスジェンダーのキャラクターは、どこから生まれてくるのか

  これは内山先生との対談。「11月のギムナジウム」「11人いる!」「マージナル」「A-A'」「X+Y」などが取り上げられています。その中でもやはり「11人いる!」の両性具有者フロルは萩尾先生お気に入りで熱く語れらています。

 

第3章 美術評論家中野京子さんとの対談:美術と漫画 歴史と漫画  

 

 「怖い絵」シリーズなどで一躍美術ブームを起こした中野先生との対談なので本書一番の読みどころでしょう。

 

  最初から「絵を金儲けの手段と考えて何が悪い、元凶は印象派」「皆さんもまずは売れないと話になりませんよ」などと会場をアジります。

 

  萩尾先生は「王妃マルゴ執筆中で、中野先生は「残酷な王と悲しみの王妃」を上梓されたところというタイミングだったので、カトリーヌ・ド・メディチメアリー・スチュアートなどの時代のヨーロッパが話題の中心になります。特にあのころの貴族の服の襟は非実用的だし描きにくいという話は美大ならではの話題で面白かったです。  

 

  個人的には「百億の昼と千億の夜」の阿修羅は、興福寺の阿修羅像の「」がポイントだったという話題に何度も首肯してしまいました。

 

第4章 萩尾望都さんへの10の質問

  これは知っている話が殆どでここでも語ってきた話が多いので割愛します。「ポーの一族」再開について詳しく語っておられるところが読みどころです。夢枕獏先生の強いリクエストがあったそうで、獏先生ありがとうございます!

 

第5章 シンガーソングライター・イルカさんとの対談:好きなことを一生やり続ける力

  イルカさんは女子美出身で現在は女子美客員教授もされているそうです。そのイルカさんが「トーマの心臓」が好きになった経緯が面白い。ラジオのパーソナリティをしていた頃、息子の冬馬君の名前は「トーマの心臓」と関係あるのかという葉書きが来て初めて知ったそうなのだとか。

 

  一方萩尾先生が「なごり雪」が好きという話を内山先生がふると、お礼を言いながらも

これは私の作詞・作曲ではない

とことわりを入れられるあたりに、イルカさんの律義さと矜持の両方を感じました。「なごり雪」は伊勢正三さんの作品ですからね。そのあたり、内山先生も萩尾望都先生もちょっと疎いのかも。

 

  イメージが違いすぎるのでぴんと来なかったのですが、お二人は同世代。でも生まれ育った背景、両親の教育方針は対照的というあたりの話からお二人の子供~少女時代の写真が続々出てきてなかなか微笑ましかったです。

 

  というわけで、萩尾望都に興味のある方にはお勧めの一冊です。 と、これだけで終わっても愛想がないので、先生お気に入りキャラ。ベスト3を紹介します。

 

オスカー(トーマの心臓)

エドガー(ポーの一族

フロル (11人いる!)

 

おまけ

レオくん (^^)! (レオくん)