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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

小説源氏物語 STORY OF UJI / 林真理子

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   林真理子源氏物語、最終三冊目はカッコつけて英語で「STORY OF UJI」、要するに宇治十帖の段です。この部分は原典、現代訳含めて全く未読で林版が初めてでした。

 

  いけぴんさんが「薫にイライラしてください」とレビューのキャプションにお書きになり、あかつき姐さんが「うじうじ宇治十帖」と突き放していたくらい主人公の薫中将の評判が悪くて若干心配していたのですが、、、

 

  それ以前の問題として、物語としてどうよ

 

  それまでの豪華絢爛、膨大な数のキャラが立ち、練りに練られた物語に比べると、登場人物は少なく、キャラの描き分けがありきたりで隅々まで気配りが行き届かず、ストーリーは平板で盛り上がりに欠け、結末が唐突で整合性に欠ける。(そこまで言うか)

 

  林真理子さんが悪いのであれば、前二作の生霊セレブ六条御息所のような明確な視点を持ちえず、三人称で淡々と進めてしまったのが原因かと思います。

 

  ただ、六条のような強烈なキャラがいないことは事実で、致し方ないとは思います。憑代となり得るのは薫を拒み続けて死んでしまう大君(おおいのきみ)くらいでしょうが、まあ彼女を語り手にしても面白くもなんともないでしょうねぇ。

 

  もちろん良いところもあります。特に色事の描写、自然描写はうまいな、と思いました。特に本作のクライマックスである匂宮と浮舟が二日間情欲に溺れまくる「浮舟」の段。浮舟が匂宮の指をかんでなつめを口に入れるという妖艶な場面まで創作して入魂の筆致でした。

 

  一方原作者の紫式部に責任があるのであれば、才能やネタの枯渇ということも当然ながらあり得ますが、それより一世一代の強烈キャラ光源氏を描き切ってもう終わりにしたかったのではないですかね。

 

  あまりの人気で周囲がやめるのを許してくれないのは現代でもよくあることですし。パッと思いつくだけでも、古くは002と009が流れ星になったのにやめさせてくれなかった「サイボーグ009」、最近ではどんな最強キャラを倒してもまたそれ以上が現れる「ドラゴンボール」などなど。

 

  閑話休題、そもそもこれは紫式部が書いたのか?という疑問さえ湧いてきます。林真理子さんの筆を通してですが、どうも今までの源氏物語と雰囲気が違いすぎるという印象をぬぐえませんでした。

 

  そこで、試しに「宇治十帖 作者 違う」でググってみたら出るわ出るわ、別人説は山ほどあるそうです。みんな思ってたんだ(苦笑。

 

     というわけで、とんだ塩レビューになってしまいましたが、知識豊富ないけぴんさんと違って私の場合原作を通しで読んでいません。ですので勝手に貶しっぱなしでほったらかしにもできないだろうと思い、原典に忠実な現代訳を読むことにしました。いろいろ調べてみるに、「謹訳」と銘打っておられるリンボウ先生こと林望版がよさげだなと思っております。(あかつき姐さん一押しの橋本治版はそれからね)

 

 古典文学の名作を林真理子が官能的に再構築 誠実だが真面目で性に対しても淡泊な薫と、好色で不誠実だが女性に優しく情熱的な匂宮。光源氏の血をひく、二人のイケメン貴公子が都から離れた、美しい水郷の地=宇治で繰り広げる恋愛ゲーム。裏切り、嫉妬、懐疑・・・。そしてふたりの間で翻弄される女、浮舟の揺れ動く心と、愛欲におぼれゆく様を、恋愛小説の名手、林真理子がリアルに、執拗に、そして官能的に描き切った問題作。 平安の恋愛小説の原初として、千年以上にわたって読み継がれてきた「源氏物語」の中でも、人気の「宇治十帖」部分を大胆に新解釈。世紀を超えた二股愛の末に、浮舟が向かった衝撃的末路は!? 美しい情景描写と、濃密にしてエロティックな性愛表現。さらにはスピード感溢れる展開に読み始めたら止まらない! 果たしてこれは古典文学なのか、それとも現代小説なのか? 前作「六条御息所 源氏がたり」(上下巻)に続く、林真理子版「小説源氏物語」の、いよいよ完結編です!