Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

キャプテンサンダーボルト(下) / 阿部和重、伊坂幸太郎

⭐︎⭐︎⭐︎

  純文学の旗手阿部和重と超人気ミステリ作家伊坂幸太郎が組んだ「完全合作」小説「キャプテンサンダーボルト」下巻です。「徹夜本」という煽りも伊達じゃない(仙台だけに、なんちゃって)、ノンストップアクションで最後まで突っ走ります。

 

  まずは簡単に上巻のおさらいを。

 

  東京大空襲と同じ日に蔵王B-29三機が墜落して三年後、蔵王御釜五色沼)からパンデミック村上病」が発生した。現在はワクチンがあるものの、どうも村上病には重大な秘密があるらしい。

 

  ウィルスの発生源とされる「御釜」に何があるのか? そして主演男優のスキャンダルを理由に封印された戦隊ヒーロー映画に何が映っていたのか?
  相葉は逃亡の途中で中学時代の野球部の悪友・井ノ原と再会。ふたりは、太平洋戦争末期に蔵王山中に墜落した米軍機の謎を追う女性・桃沢瞳の助けも借りて謎に挑む。

 

  桃沢瞳の父が残した言葉「村上病はあるけど、ない」の意味は?(*)

  謎の過激環境団体の「五色沼水は、清めます。」の意味は?(**)

 

  その他もろもろの伏線をばらまいて、肝心の主役相葉が警察に拘束され、村上病を発症したとして病院に隔離されて上巻は終わりました。

 

  下巻は当然ながら井ノ原と桃沢とポンセ(カーリー犬)の相葉奪還作戦から始まります。警察が例のターミネーター銀髪の怪人」の登場で大混乱の間隙をついて何とか奪還した相葉は予想通り、村上病ではありませんでした。

 

  何はともあれ、三人と一匹の逃避行が始まり、銀髪の怪人が死屍累々を築きながら追ってきます。カギを握る例の映画の主演男優レッドと落ち合えたのもつかの間、今度は桃沢瞳が銀髪の怪人に拉致されます。二人には五色沼水を汲んでくるしか選択肢はなくなります。

 

  さあ、そこから先はハラハラドキドキの展開でノンストップで二人の母校の小学校での銀髪の怪人との対決に。果たして彼らはこのターミネーターを倒せるのか?

 

--------------------------------------------

 

  ここから(*、**)のネタバレです。

 

  まず、村上病は存在しませんでした。しかし村上ウィルスはありました。終戦間際に五色沼地下の日本軍生物兵器研究施設で完成していたのです。それを例のB-29に乗ってきた米軍により使用を阻止されアメリカに持ち帰られたのでした。そのウィルスの存在と地下施設を封印するために村上病は偽造されたのです。

 

  このウィルスは五色沼水で増殖力・感染力が増大し、人体内に入ると体内細菌を全て猛毒化します。例の過激環境団体のターミネーターはこのファージを手に入れ、五色沼水と反応させることにより人類を「清め」ようとしていたのでした。手っ取り早く言えばバイオテロです。

 

  つまりは村上病は(作れば)あるけど、(今のところ)ない。

 

--------------------------------------

 

  子供時代の思い出を伏線に二人はなんとか銀髪の怪人を倒しますが、桃沢瞳と引き換えに五色沼水を渡しており、ボンベ内に男はすでに水を注入、タイマーはもう発動すみ。

  ちりばめられた伏線が収束し、破滅へのカウントダウンが点滅する中で、白熱のクライマックスに突入する!

 

  ここからは読んでのお楽しみ。どこへ捨てればウィルスを隔離できるのか?ついでに言うと、二人の借金は返済できるのか?.....あっと驚く伏線の回収が待ち受けているのでした。

 

  ややご都合主義に過ぎるところやエンドロール的エピソードの長いところもいかにもハリウッドっぽいですが、まあ楽しめることは請け合いです。

 

  上巻でもちらっと述べましたが、佐々木敦氏の解説もなかなか面白い。「村上病」の村上=村上春樹説を開陳するなど、なかなか楽しめます。

 

  ボーナストラックは説明すると結末のネタバレになるので割愛します。

 

  これで一応今のところ、伊坂幸太郎の小説はコンプリートしました。これからも彼の新作は追いかけていきたいと思います。