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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

時をかけるゆとり / 朝井リョウ

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 朝井リョウを読むシリーズ、小説を一通り読み終えたのでエッセイに入ります。畏れ多くも原田知世様の「時をかける少女」からお題をいただいた「時をかけるゆとり」です。風の噂でバカバカしいエッセイだとは聞いていたのですが、まあ予想をはるかに上回るバカっぷりでした。おそるべしゆとり世代

 

就職活動生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。初のエッセイ集では天与の観察眼を縦横無尽に駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。『学生時代にやらなくてもいい20のこと』に社会人篇を追加・加筆し改題。 (AMAZON

 

  冒頭の(作者たっての希望で作ってもらった)年表によりますと、リョウは1989年生まれ、俗に1990年問題と言われる「ゆとり教育」世代です。岐阜県有数の大垣北高校という進学校で学んだくらいで決しておバカではないのですが、東京での大学(早稲田大学)生活は一言で言うと

 

浅慮無分別没常識

 

これはもう「銭形警部はルパン三世の父親(とっつぁん)だと思っていた」1979年生まれの森見登美彦や、「あの頃ぼくらはアホでした」1958年生まれの東野圭吾でさえ尻尾を巻いて逃げ出すくらいひどい。けど、無分別ゆえの行動力はある。故に余計に騒動は大きくなる。

 

  例えば東日本大震災で各地の花火大会は当然中止。しかしリョウたちは「自粛我慢」という言葉とは無縁。探しに探して伊豆諸島の御蔵島の花火大会にでかけることにしたのはいいが、出発当日太平洋上には三つも台風ができている。でもそんなこと気にせずダイジョブダイジョブと乗船。その結末は想像通りでもあり、越えているところさえあり。

 

  また、夏休みに北海道で行われる某フェスに仲間と車で出かける予定を綿密に立てたはいいが「青函トンネルは一般車は通れない」という基本的知識が欠如していた。。。それならとフェリーやら列車やらを予約しようとするが、これまた友人が留学先で教えられていた日本のOBONの大変さをなめていて。。。

 

  かと思えば、友達と東京から京都までサイクリング旅行する計画を立てたはいいが、ロードバイクを出発わずか二日前に購入するという無計画ぶり。まあそれでも死ぬような思いをしつつ達成してしまうところは凄い。

 

  まあそういうアホエピソードのオンパレードで当時真面目に働いていた社会人や東日本大震災で苦汁をなめていた人々からすると噴飯ものなんですが、「桐島、部活やめるってよ」「チア男子!!」に始まる一連の小説にその経験をきっちりと取り入れているところはえらい。

 

  にしても、大学二年生というまだ就職活動に関係ない時期に編集者の依頼で

・ ちゃっかり就活を取材し

・ 超知ったかぶりのエラそうな就活エッセイを書き上げ

・ その後の就職活動に役立て

・ 後年「何者」という小説にして直木賞をかっさらい

・ 再び「知りもしないで書いた就活エッセイを自ら添削する」エッセイを書く

 

一粒で5度おいしい思いをしているのは、賢いというか、ちゃっかりしているというか。。。

 

  そんな朝井リョウの紹介文が最後に載っていますが、そこでもシャレのめしていて、もういっそ清々しい(苦笑。一部抜粋して終わります。

 

2009年「桐島、部活やめるってよ」で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。お腹が弱い。10年「チア男子!!」でスポーツ小説ならではの大人数の書き分けに失敗。13年「何者」で第148回直木賞を受賞し、一瞬で調子に乗る。14年「世界地図の下書き」で第29回坪田譲二文学賞を受賞するが、「イイ話書いてイイ人ぶってんじゃねえ」と糾弾されれる。

 

。。。。。「朝井リョウの優しさを感じさせる」と「世界地図の下書き」レビューのキャッチコピーに書いた私の立場が。。。。。(そんなものないって?)