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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

チア男子!! / 朝井リョウ

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   朝井リョウを読むシリーズもあと二作、というところまできて#stayhomeで中断していました。6月に入り、ようやくブックオフにでかけてささっと二冊買ってきました。で、今回は「チア男子!!」です。

 

  「桐島」に続く第二作、朝井リョウはもちろんまだ早稲田大学在学中で、同大学の男子チアリーディングチーム「SHOCKERS」から着想を得た作品です。「桐島、部活やめるってよ」に次いで本作品も映画化されました。

 

  デビュー作が驚異の大ヒットとなった後で大変なプレッシャーがあったと思いますし、同路線で行くのか思い切って作風を変えるのか、随分悩んだことでしょう。あとがきを読んでみますと

「いつかスポーツものをやってみたい」と身の程知らずなことを言った私に、「じゃあ二冊目でやりましょう」と思いきったことを言ってくださった担当編集の高梨さん(注:集英社

とあり、本人の希望と学内にあった絶好の題材、そして編集者のサポートという幸運が重なってこの作品が出来上がったようです。もちろんその幸運をつかまえるだけの本人の努力があってこそですが、結果として本作品も彼の代表作の一つとなりました。

 

大学1年生の晴希は、道場の長男として幼い頃から柔道を続けてきた。だが、負けなしの姉と比べて自分の限界を悟っていた晴希は、怪我をきっかけに柔道部を退部する。同時期に部をやめた幼なじみの一馬に誘われ、大学チア初の男子チームを結成することになるが、集まってきたのは個性的すぎるメンバーで…。チアリーディングに青春をかける男子たちの、笑いと汗と涙の感動ストーリー。 (AMAZON解説)

 

  作品自体はもうこれ以上ないと言うくらいシンプルなスポ根ストーリー。男子チアに関して、今時ですから

 

早稲田 SHOCKERS

 

Youtubeを検索していただければいくらでも動画が出てきて実感がわきますので説明割愛(をいをい。

 

  まあとにかく活きのいいイケメンタレントたちにチアリーティングを特訓して主役を張らせれば若年(特に女子)層に大受けする映画が出来上がるわな〜、と思わせる直球ストレート勝負の作品で、プロットのひねりと屈折した心情表現が持ち味の朝井リョウとしては、(今から思えばですが)異色の作品です。

 

  まあ若書きですのでノリが軽すぎるし、主人公たちのバックグラウンドの描き方が浅過ぎるし、これで500P近く引っ張るの?と言う感じでダラダラ物語は進んでいきます。

  途中リョウらしいフックもあるにはありますが、あまり効いておらず、正直言って

 

これ本当にリョウの作品? 映画やTVドラマのシナリオライターさんのシノプシス程度じゃない?

 

という思いが拭えませんでした。

 

  そういう思いをようやくにして払拭してくれたのが最終章「二分三十秒の先」でした。朝井リョウの持ち味の一つである、ここ一番での爆発力はやっぱりすごい。

  二分三十秒のチアリーディングの演技の中でこれまで溜めに溜めていたエネルギーを存分に発散させるとともに、チームメンバーたちの心情の変化と成長をも鮮やかな手際で描き切り、痛快なフィニッシュを決めてくれました。

 

  結果後味の良い長編スポーツ小説となっています。だからと言って前半から中盤までの浅さ、冗長さが消えるわけではないですが、第二作でこれだけの長さのストーリーを書ききったことは評価したいと思います。

 

  ちなみに個人的には中国語教授の息子にして留学生の陳さんのけったいな京都弁風日本語と、高給料亭の息子溝口君の箴言集が気に入りました。

 

ドーモトはん、下克上どす(陳)

 

 【どんな馬鹿げた考えでも、行動を起こさないと世界は変わらない】マイケル・ムーア (溝口)