スペース金融道 / 宮内悠介
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宮内悠介を読もうシリーズ2本目は面白いのが読みたくて「スペース金融道」にしました。なにわ金融道スペース篇みたいなベタな作品かと思いきや、SFと経済小説を融合させて結構ドライでシニカルな笑いをかぶせた、かなりハイブロウな作品になっていました。
五編からなる短編集(最後の作品は書き下し)ですが、設定は共通しています。
舞台は人類最古の太陽系外の植民惑星、通称二番街。
主人公はユーセフとぼく(本名不詳、通称ケイジ)。二人は
バクテリアだろうとエイリアンだろうと、返済さえしてくれるなら融資をする、そのかわり高い利子をいただきます
という方針で
宇宙だろうと深海だろうと、核融合炉内だろうと零下一九〇度の惑星だろうと取り立てる
情け容赦ない宇宙闇金「新星金融」二番街支社の社員。
このユーセフのキャラが立ってます!
闇金を体現したような非情でパワハラで愛想がなくていつもぼくにあり得ない無理難題を押し付けて難事件を解決してしまう不思議で厄介な切れ者。金貸しでありながらムスリム(イスラム教は金利を禁じていた)。
もとは物理と経済の学位を持ち、量子金融工学なる分野のエキスパートで専門は多宇宙ポートフォリオを中心とする量子デリバティブというエリートだったが、この理論での多宇宙ポートフォリオが10年前に惑星規模の経済破綻を起し、野に下った、らしい。
いくらその説明を聞いてもぼくには「いま、何か、呪文のようなものが聞こえました」としか言いようがない。
しかしてこのぼくは、元宇宙エレベーター建設技師でありながらどういうわけか地獄(アビス)の女王につかまりタダ働きでサーバー管理させられていたところを、女王の借金取り立てに来たユーセフに目をつけられて拾われたという経歴の持ち主。ユーセフにいいように使われてぶつぶつ文句言いながらもストックホルム症候群的についていってしまう結果名コンビとなってしまっております。
この二人のルーティン。ありえないところまでありえない債権者を追いかけていき、
ユーセフ 「企業理念」
ぼく 「はい。わたしたち新星金融は、多様なサービスを通じて人と経済をつなぎ、豊かな明るい未来を目指します。期日を守ってニコニコ返済ー」
と言い終えて借金を取り立てるわけです。その多くは社会的弱者で大手が手を出さないアンドロイド。このアンドロイドと人類の共生がこの物語に通底するテーマとなっています。
それにしても僕の悲惨な目にあうことあうこと。たいていの場合、冒頭でぼくが悲惨な状況に置かれているところが提示され、そこから時間を遡って物語が始まる展開となっています。よくあるパターンではありますが、笑いとサスペンスが同居して実にうまい。
「スペース金融道(Chain of Responsibility)」では、宇宙ステーションの事故現場までユーセフに引っ張っていかれ、最後は二番街一の大物の500年前の債権取り立てに付き合わされ、
「スペース地獄篇(The Composited Inferno)」ではユーセフに無理矢理注射を打たれてサイバースペースまで取り立てに行かされ、戻ってきたと思えば地獄(アビス)へ道連れ、
「スペース蜃気楼(Factory of Nothing)」では、冒頭どこかのカジノでぼくは<心肺>を賭けなければいけないほど追い詰められ、
「スペースサンゴ礁(Memento Caretaker)」ではぼくが「ミトコンドリア病」にかかってしまい別人格に乗っ取られてこともあろうにユーセフに借金をするわ、憧れの女性教授リュセにセクハラメールを送りまくるわ。。。
「スペース決算期(to Bridge Everything)」この書き下し終章にいたっては、大統領ゲベィエフ二選の奸計のためにユーセフからアンドロイド排他主義<人間原理党>党首に無理矢理させられてアンドロイドたちから白眼視され行動が逐一ウェブで報道されてしまいろくに外食も出来ません。
そんなこんなの窮地を何とか切り抜けるさまが面白おかしく語られるわけですが、不思議な植物や不思議なサンゴ礁や、アンドロイドの新三原則や動植物との婚姻関係などなどのSFガジェットもいたるところの散りばめられており、なかなか面白い読み物となっていました。残念ながら経済学の分野は半分も理解できませんでしたが(これでも見えを張ってる)、それでも十分楽しめます。
人類が最初に移住に成功した太陽系外の星―通称、二番街。ぼくは新生金融の二番街支社に所属する債権回収担当者で、大手があまり相手にしないアンドロイドが主なお客だ。直属の上司はユーセフ。この男、普段はいい加減で最悪なのに、たまに大得点をあげて挽回する。貧乏クジを引かされるのは、いつだってぼくだ。「だめです!そんなことをしたら惑星そのものが破綻します!」「それがどうした?おれたちの仕事は取り立てだ。それ以外のことなどどうでもいい」取り立て屋コンビが駆ける!新本格SFコメディ誕生。(AMAZON)