Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

時代へ、世界へ、理想へ 同時代クロニクル2019→2020

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

  私が尊敬してやまない孤高の作家高村薫女史の新刊である。今回は小説ではなく評論集、週刊サンデー毎日誌の「サンデー時評」に2019年1月から2020年3月まで掲載された時評の単行本化である。  歯に衣着せぬ高村薫女史のこと、帯からして煽ること煽る事。

 

破局を見つめ、希望を取りかえせ。

政治腐敗は極を越え、社会システムは破綻寸前。ウィルスが、災害が、気候変動が、 地球環境から個人の肉体、精神までおびやかす。人倫の軸が揺らぐ、かつてない時代2019→2020を、理想を手放さぬ作家の幻視力が見透かす。根底的な思考による、よりよく今を生きるための時評集。

 

  内容も一言で言えば激越、読み終えて暗澹たる気持ちになった。

 

  日本は経済大国と言われた最盛期を過ぎ、少子高齢化と人口減少により国力は衰退の一途をたどっていて最早回復は望めない。

 

  政治は無策と腐敗の極みにあり、誰一人責任を取ろうとしない。1000兆円を越える借金を抱えながらも、繰り返される大災害の復興のため財政出動を繰り返し、この状況が続けば必ず日本経済は破綻する。

 

  世界はGAFAに牛耳られ、アメリカは良識のかけらもない男が3年も政権を握り世界をおもちゃにし、中国の台頭は民主主義社会を揺るがす。

 

  どんなにCO2排出を規制しようと世界は動いてももう地球温暖化に歯止めはかからない。

 

  私たち庶民が漠然と感じてはいても、日々の多忙に流されて敢えて触れずにいる日本の、世界の傷口を高村女史は遠慮なく抉る。

  高村女史のモットーは「いかなるイデオロギーにも与しない」だが、さすがにこれだけ安倍政権批判(否定)をサンデー毎日という媒体で繰り返せば「左翼(今風に言えばパヨクか)」のそしりを免れないとは思う。

  しかし、問題なのは左翼であろうが右翼であろうが、否定のしようのない「事実」を徹底的に検証した結果がこの時評集だということだ。

 

  それにしても、日々溢れかえる情報の洪水に何と多くの未解決の問題が流し去られ、忘却の彼方に消え去っていることか。

  辺野古問題しかり、日産という企業の失態と傲慢な逃亡者しかり、日韓問題しかり、原発事故しかり、風水害しかり、モリカケしかり、東京オリンピック問題しかり、、、

 

  これだけ山積みの未解決の課題が残されている上に、今回の新型コロナ禍である。さすがの女史も今の猛威を予言しえていない。

 

  それでなくても日本はあと2,3年で沈みゆく運命だったことがこの時評をよめばわかる。1000兆円以上の赤字国債はデフォルトを免れ得ないと思わせる数字だが、今回の新型コロナ対策の100兆円規模の緊急対策はそのとどめを刺すかもしれない。

 

  こんな政権を許したのは、国民の無関心と好きな情報しか見えないSNSの台頭である。もう手遅れかもしれないが、この書を読むことでこの流れにせめても逆らおうではないか。

 

  高村薫ファンには嬉しい、高村節健在を示す文章を二つだけ抜粋しておこう。

 

   あなたは、生産性と称して少ない数の従業員を酷使するような旧態依然の企業に未来があると思うか。地域の未来をカジノにかけるような自治体に住みたいと思うか。子どもの教育費や住宅ローンがあるから現状に耐えるしかないというのは、ほんとうにそうだろうかー(p29)

 

 

  私たちがグレタ・トゥンベリを通して幻視する異形とは、過酷な気候変動の下で生存の危機にさらされた未来の人類の姿である。かつてないほど低劣で傲慢な指導者があふれかえる今日の世界で、その対極に突然舞い降りた少女は、しかし救世主ではない。(p177)