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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

少女は卒業しない / 朝井リョウ

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  朝井リョウを読むシリーズ、今回は朝井リョウが本領を発揮する学園群像劇「少女は卒業しいない」です。

 

  今回は舞台を廃校が決定した田舎の高校の卒業式の一日に絞り込み、その早朝から次の夜明けまでに起こる七つの物語で、七人の少女の七つの別れを描いています。デビュー作「桐島、部活やめるってよ」と同じ学園ものですが、その頃より文章は遥かにうまくなっており、特に第一話に入っていく冒頭の文章は素晴らしい。

 

伸ばした小指のつめはきっと、春のさきっぽにもうすぐ届く。つめたいガラス窓のむこうでは風が強く吹いていて、葉が揺れるのを見ているだけでからだが寒くなる。

 

  見事に卒業式の未明の情景を少女の心情と重ね合わせ、以後時系列に沿って次の夜明けまで、七つの情景を切り取っていきます。

 

第一話:エンドロールが始まる 

  卒業式の早朝、図書室

  京都の女子大へ進学する少女と図書館の先生

 

第二話:屋上は青

  卒業式開始直前、幽霊が出るという噂の東棟屋上

  地元国立大へ進学する真面目な少女とダンスの道を選び中途退学した幼馴染

 

第三話:在校生代表

  卒業式会場

  答辞を読む高校二年の少女、大胆にも答辞で憧れの先輩へ愛の告白をする、その文章のみで構成。

 

第四話:寺田の足の甲はキャベツ

  卒業式が終わって卒業式後ライブが始まるまでの体育館

  バスケ部部内公認の二人。少女は東京の大学へ、男子は浪人。

 

第五話:四拍子をもう一度

  卒業式ライブのバンド控室

  ビジュアル系バンドのボーカリストと彼の本当の歌声の美しさを知る少女二人

 

第六話:ふたりの背景

  ライブ中の美術室

  美術部の卒業生二人。帰国子女でアメリカの大学へ進学する少女と、パン屋で働くことになった知的障害学級の少年。

 

第七話:夜明けの中心

  真夜中の校内

  剣道部の天才の恋人だった料理研究部の少女と、剣道部主将。

 

  この七つの物語を絶妙に少しずつリンクさせながら話を進め、高校特有の細かなガジェットを活かしつつ、女子高生の心情を鮮やかに表現する。第二話で「幽霊」の正体をあっさり暴いておきながら、最後の二篇で「死」の匂いを漂わせ、終文で夜明けの光が校舎から夜の波を引かせる。。。

  朝井リョウはどうしてこんなにうまいんだ、と感嘆するしかない完璧な短編集です。

 

  個人的には寒色系の透明感が全体を支配する第一話「エンドロールが始まる」と第六話「二人の背景」が特に素晴らしいと思います。不覚にも涙腺が緩んでしまいました。

  第一話の冒頭を最初に紹介しましたが、最後は第六話において、知的障害の少年の疑問という形で朝井リョウがこの物語にこめた想いを引用して終わりとします。

 

「ぼくは不思議なんだ。」

「どうして、ぼくの大切な人はみんな、遠くへいってしまうのだろう。」

「ずっと、ふしぎなんだ。みんな、いなくなってしまう」

 

 

 

今日、わたしは「さよなら」をする。図書館の優しい先生と、退学してしまった幼馴染と、生徒会の先輩と、部内公認の彼氏と、自分だけが知っていた歌声と、たった一人の友達と、そして、胸に詰まったままの、この想いと―。別の高校との合併で、翌日には校舎が取り壊される地方の高校、最後の卒業式の一日を、七人の少女の視点から描く。青春のすべてを詰め込んだ、珠玉の連作短編集。  (AMAZON解説)