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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

武道館 / 朝井リョウ

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  朝井リョウの作品をボツボツと読み進めているが、今回はこの「武道館」。AKB48が隆盛を極めた時代の女性アイドルグループの成立から「武道館」公演を成功させるまでを、いつものようにちょっと斜に構えるのではなく、もうど真ん中どストライクを狙った直球一本勝負、というくらいけれん味を排除し真面目に描いていて驚いた。

 

 「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ「NEXT YOU」。さまざまな手段で人気と知名度を上げるが、ある出来事がグループの存続を危うくする。恋愛禁止、炎上、特典商法、握手会、スルースキル…“アイドル”を取り巻く様々な言葉や現象から、現代を生きる人々の心の形を描き表した長編小説。(AMAZON解説)

 

  私の世代から見ると、AKBの所謂「秋元商法」は卑怯というか悪どいというか、年端もいかない少女たちを一束いくらで売りにかけ消費者を思いのまま操っている、という印象しかなかった。この作品でも名前は出さずに触れられているが、2013年に「恋愛禁止」などという人権無視のルールを破った、というだけで峯岸某という女性が丸坊主になったのは強烈な嫌悪感を覚えたものだった。

 

 しかしそんな世界でも、入ってくる女の子たちは必死で頑張っているのだし周囲のスタッフたちも彼女たちを本物にしてグループとして長続きさせるべく奮闘しているのだというところを、先ほど述べた恋愛禁止のみならず、炎上、CD特典商法、握手会、スルースキルと言ったAKB以降の風潮を取り入れつつ、朝井リョウは活写していく。

 

 主人公たち、「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループNEXT YOUのメンバー

アイドルに憧れてこの世界に入るも幼馴染大地への恋心に揺れる主人公愛子

センターでリーダー格ながら、影を帯びた美女(あおい)、

最も芸歴が長く炎上してもそれをスルーできる波奈(はな)、

一番年下ながら年齢を重ねるにつれ心身ともに成長していくるりか

太るのが嫌で極端なダイエットに走り周囲を心配させる真由(まゆ)、

五人五様の個性も上手く書き分けられている。

 

  苦難を経ながらも成功の階段を登っていき、波奈の卒業を祝う武道館公演が間近に迫ったある日、碧と愛子の恋愛がすっぱ抜かれ、最大の危機をNEXT YOUは迎える。。。一転して最終章は武道館公演を仕切るイベントスタッフの視点で語られ大団円を迎える。そこにやっと作者らしい仕掛けがしてあるのだが、これは読んでのお楽しみ。

 

  女性アイドルグループの話で涙腺が緩むとは思いもしなかった。さすが朝井リョウである。やや楽天的というか、肯定的過ぎる感もあるが、今に続いているアイドル商法について一石を投じた、良い作品だと思う。