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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

とるとだす / 畠中恵

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  畠中恵さんのしゃばけシリーズ文庫版最新刊の第16巻。今回も短編五篇の構成。若だんなの父大店長崎屋の主人藤兵衛が倒れたという設定で、一太郎の成長を促す回となっている。藤兵衛の倒れ方と最終的な治り方にかなり無理があるが、それぞれの作品はよくできている。安定のしゃばけクオリティと言える。

 

 若だんなの父、藤兵衛が倒れた!長崎屋の大黒柱の危機に、妖たちも大慌て。一太郎は、父の命を救うため、薬種屋たちのいさかいに飛び込み、蜃気楼のなかに迷い込み、恐ろしい狂骨の怨念につきまとわれながら、ついには神が住む常世の国を目指すことになるのだが―。八面六臂の活躍を見せる若だんなは父を助けることができるのか!?不思議と怪奇に彩られた、スリル満点のシリーズ第16弾。(AMAZON解説)

 

とるとだす」 レギュラー僧、上野広徳寺の寛朝が江戸の主だった薬種問屋を集めた場で、藤兵衛が薬を飲み過ぎて人事不省に陥る。このシチュエーションに無理がありすぎ。病弱な一太郎のためという理由も取ってつけたようであまり良くない。が、話としては無難にまとめている。起承転結の「起」の章としては致し方ないところか。

 

しんのいみ」 蜃気楼の中という特殊空間で話が進む、ルーチンから外れた異色で独特の雰囲気を持った作品で、今回最も面白かった。

 

ばけねこつき」 若だんなに降って湧いた新たな縁談騒動で、長崎屋のそばの一軒家に引っ越した妖たちが活躍するが、まあ平均点、安定のクオリティとも言えるが。

 

長崎屋の主が死んだ」 狂骨という、ハリポタのデメンター並みに怖い妖が新たに登場する。これは結構後を引く怖さである。遊女の梅毒という悲しい宿痾を扱っているところも評価できる。

 

ふろうふし」 藤兵衛を完治させるために最後に神仙の力を借りることとなる。最後だから仕方ないとは言え、真ん中の三篇はなんだったんだ、という気がしないでもない。神仙のキャラはうまく昔話を取り込んでうまいとは思うが。

 

  というわけで、「しんのいみ」が出色だったので星はいつも通り三つ。