Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

名も無き毒 / 宮部みゆき

⭐️⭐️⭐️

  続いて杉村三郎シリーズ第二弾。杉村三郎と彼を取り巻く人々、環境が「誰かーSomebody」で提示されているので、二作目はすっと作品世界に入っていける。

 

『今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田いずみは、質の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも街では無差別と思しき連続毒殺事件が注目を集めていた。人の心の陥穽を圧倒的な筆致で描く吉川英治文学賞受賞作。(AMAZON解説より) 』

 

  手あたり次第悪意という毒をまき散らす女、猛毒の青酸カリによる連続殺人事件、土壌汚染と言う毒、毒の三題噺と言った趣。

  この三つは巧妙に絡め、杉村三郎とその家族を窮地に追い込んでいく宮部みゆきのプロットは相変わらず巧みであるし、丁寧な文章はもう抜群の安定感である。AMAZON解説にもあるように圧倒的な筆致でもある。文学賞を受賞して当然であろう。感動もする。ただ、全編でまき散らす毒に当たり気味のせいか、その感動がイマイチ弱い、と思うのは彼女にあまりにも多くを求め過ぎか。また毒に重きを置くあまり、人物造型がやや浅い気もする。

 

  それにしても、原田いずみという女のまき散らす毒はすごい。

  特に、何の罪もない兄の結婚式の最後で場を混乱の極みに落とし込み、後に兄の妻を自殺させることにもなった、嘘で固められた壮絶なスピーチは「えぐい」の一言。読むのが辛く目を覆いたくなるほどだ。

  小説家はフィクションとは言え、ここまで書けるのかと思ってしまう。

 

  閑話休題、二作を読んでどうにも気になるのが、杉村三郎と言う人物にそれほどの魅力がないところ。連作を意識してか、わざと主人公を浅く書いているのかもしれないが。。。今回巨大コンツェルン会長の愛娘である、元々病弱な妻菜穂子心理的にもかなり痛手を蒙っているので、次作「ペテロの葬列」では家族にそれ相応の波風が立つのかもしれない。