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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

NHK「100分de名著」ブックス 夏目漱石 こころ / 姜尚中

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  この頃どういうわけか、「本が好き!」に漱石の「こころ」のレビューが多いのでついつい読んでしまう。マーブルさんもそのお一人だが、そのつながりでエドガー・アラン・ポーの短編集のレビューの中で

 

こころ」を読むと「ウィリアム・ウィルソン」を思い起こすと書いた本がある

 

と書いておられたのが気になった。「ウィリアム・ウィルソン」はドッペルゲンガーをテーマとした小説の嚆矢とされる傑作だが、この同名二人とKと先生の関係が似ているとはとても思えない。

 

  で、Kindleで早速読んでみた。本全体としては生と死、真面目と卑怯を軸において平易且つ網羅的に解説されており、好ましい評論だと思う。姜先生の本は初めて読んだが、人柄が偲ばれる好もしい文章である。

 

  さて、ウィリアム・ウィルソンの項であるが、やはり違和感はぬぐえなかった。K=善、先生=悪とは単純に分けられないし、一心同体であるとも思えない。むしろそのあとに書いてあるプラトニックな同性愛的な関係の方が納得がいく。漱石がもしポーに影響を受けていたとするなら「夢十夜」あたりの方が論じる価値があるように思う。

 

  また著者はトーマス・マンの「魔の山」にも相似性を見出しておられる。確かに時代と思想に共通点があることには得心できるものがあるが、例えば三島や北杜夫のように漱石がマンに心酔していたわけではないと思う。姜先生も相似性があるとだけ書いておられるだけなので、それはそういう事でいいのではないかと思った。

 

  100分で名著と言うシリーズらしいが、「こころ」を読んでいる人なら小一時間あれば読めるので興味ある方はどうぞ。

『自由と孤独の時代に生きる「人間の自意識」を描いた、漱石不朽の名作『こころ』。それは今からちょうど百年前に、現代人の肥大化する自我を見通した先駆的小説でもあった。「あなたは腹の底から真面目ですか」。功利的な生き方を否定し、あえて“真面目さ”の価値を説いたこの作品を通して、人との絆とは何かを考え、モデルなき時代をより良く生きるための「心」の在り方を探る。 (AMAZON解説より)』