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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

劫尽童女 / 恩田陸

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  汲めども尽きぬ恩田陸の未読作品。今回は彼女お得意の超能力系ミステリー。題名は「こうじんどうじょ」と読む。「劫尽」の説明は物語中盤を過ぎた頃に起こる大厄災を象徴する言葉として出てくる。「こうじんか、劫尽火」、悪いことをすると地獄の劫火に焼かれるその火のこと。世界が崩壊する時に、世界を焼き尽くす火のことでもある。

  一方童女とは伊勢崎遥のこと。下記AMAZON紹介にある伊勢崎博士の娘である。伊勢崎博士は米軍の特殊研究機関ZOOで「タカの視覚、 イルカの聴覚、豹の運動能力、渡り鳥の方向感覚等々の能力を人間にフィードバックし、新たな超人を誕生させる」研究をしており、まず犬(アレキサンダー)、次いで生まれてくる自分の子供(遥)に遺伝子操作と薬物投与を施し、超人として誕生させたのだった。

 

 『父・伊勢崎博士の手で容易ならぬ超能力を与えられた少女・遥。彼ら親子は、属していた秘密組織「ZOO」から逃亡していた。そして、七年を経て、組織の追っ手により、再び戦いの中へ身を投じることに!激闘で父を失った遥は、やはり特殊能力を持つ犬・アレキサンダーと孤児院に身を潜めるが―。殺戮、数奇な運命、成長する少女。彼女の行く手に待つのは何か。(AMAZON解説より) 』

 

  冒頭ZOOの「ハンドラー」を中心とする暗殺要員が、密かに帰国していた伊勢崎博士の別荘を監視、急襲するも、あえなく返り討ちにあうトリックは見事で、滑り出しは上々である。(VOLUME 1 化現)

 

  その伊勢崎博士も実は寿命が尽きかけており、超能力を付与されたデザイナーズ・ベビー、娘のと、デザイナーズ・ドッグである超能力犬アレキサンダーは、博士の遺言により肝いりのキリスト教施設に身を隠す。ある日そこに四人の外部の人間がやってくる。遥が警戒した通り、その中には伊勢崎博士側の人間とZOOの暗殺要員が混じっていて、、、とそこからの殺戮シーンも恩田陸快調だな、と思わせる。(VOLUME 2 化縁)

 

  その事件後、遙は施設を出て四人のうちの一人だったルポライター神崎と施設の一員だった高橋シスターと三人で都会のマンションで疑似家族として暮らしている。アレキサンダーは組織の別の老人に預けてあり、時折散歩で偶然を装って会う程度。しかしその町に「人食い犬」の噂が持ち上がり、実際一人の男が殺される。一方遥は初潮を迎え不安定な時期を超えてさらに能力が一段階上がり、人食い犬が実在することを感じ取る。一方その人食い犬も三人の存在と居場所を察知して偵察にやってくる。この犬は果たして敵か味方か?もうワンペアの超能力者+超能力犬の存在を示唆し、この二人の超能力が共鳴した際の破壊力の凄さを示唆して第三部は終わる。(VOLUME 3「化色 前編」)

 

さあいよいよ遥の超能力が開花したか、とここまで期待させておいて、VOLUME 4は急に話が変な方向に進み出し、挙句の果ては「劫尽火」の大厄災である。以下、ネタバレを含む。

 

 

 

  その劫尽火とは、アメリカ合衆国ニューメキシコ州の軍施設の廃棄核燃料貯蔵庫の大爆発であり遥も関与していた。だから当然生きているはずはない。此処までで話をとどめておいて、遙は劫尽火に焼かれて死んだ、ということにしておけばまだよかった、と思う。

  ところが終章で遥は生きている。そしてこれまた死んだはずのある男とある国で最後に対決する。そして自分の進むべき道を悟る。

 

  賛否両論はあるだろうが、あれだけの大厄災を引き起こしておいて、この展開は一体何なんだ、と言いたい。もう少しストレートな超能力合戦の末に最後の展開に持ち込めなかったものか?

  前半の緊迫感がなかなか素晴らしかっただけに残念である。