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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

なんて素敵にジャパネスク / 氷室冴子

⭐️⭐️⭐️

  先日読んだ「ザ・チェンジ」の系譜をつぐ氷室冴子の代表作の一つ、私でも題名くらいは知っている「なんて素敵にジャパネスク」。冊数が多いのでためらっていたが、あかつき姐さんによると第二巻までで十分ということで、復刻版がそこまで出ているので読んでみた。まずは第一巻。

 

  一言でいうと、コミカルな少女漫画を平安時代にもっていったような、面白くてハラハラドキドキ、ちょっとムネキュンの少女小説。「ザ・チェンジ」で会得した笑いのツボを見事に活かしている。これはコバルトファンに人気が出るわなあ、と納得。

 

  ヒロインである身分高き家柄の令嬢瑠璃姫の紹介からはじまり、成り行きで婚約者になってしまった筒井筒(おさななじみ)の高彬との初夜に何故か必ず(お約束で)邪魔が入り、そのうち雪だるま式に話が大きくなり、最後は東宮(今でいう皇太子)を亡き者にしようとする陰謀を瑠璃姫が(結果的に)どういうわけか解決してしまうという、「入道の変」がメイン・ストーリーとなる。

  通い婚の平安時代、読み物といえば「源氏物語」と相場が決まっている頃の身分高き深窓の令嬢といえば、

 

 一生に数回外出すればいい方

 

だったそうだが、それではこんな騒動が成立しない。だから瑠璃姫は幼いころやむを得ない事情により吉野で祖母と暮らし、夭逝した「吉野君」と野原で遊びまわっていた、という設定になっている。なるほどうまい。

 

  というわけで瑠璃姫お転婆で気が強く、自立心も強く、それ以上に好奇心満々で行動派。お付きの女房小萩の気苦労も絶えないが、この小萩もミーハーで結構面白い。そして瑠璃姫と対極にある令嬢二の宮東宮の叔母藤宮のキャラクタ設定もうまい。

 

  言葉使いも現代風になっていて、そういえば彼女は「現代では」という説明をよくする。そのあたり、読む少女層に「難しく考える必要はないのよ、今の女子と同じ思考回路の持ち主なんだから」と氷室冴子が言ってくれている感じが好ましく、大ヒットの要因となったのでは、と思ったりもした。

 

  例えばこんな言い回し。

(父の陰謀で入り込んだ男から逃げて幼馴染の高彬に助け舟を出されて)

「そ、そうよ、絶対、そうよっ。あたしと高彬は、ぶっちぎりの仲よっ!」

 

  こんな言い回しをするなら、わざわざ時代小説にしなくてもよさそうなものだという見方もあるかもしれない。確かにストーリー自体はいわゆるラノベの範囲を出ない。

  が、そこをしっかりとした時代考証平安時代にもっていったからこそこれだけ面白い話が出来上がったのだ、と思う。数多く挿入される和歌も含め、氷室冴子のその力量には敬服した。

 

  第二巻へ続く。

  

『時は平安―。京の都でも一、二を争う名門貴族の娘、瑠璃姫は十六歳。初恋の相手・吉野君の面影を胸に抱いて独身主義を貫く決心をしていた。だが世間体を気にする父親は、結婚適齢期をとっくに過ぎた娘にうるさく結婚を勧めてくる。ついにある夜、父親の陰謀で無理やり結婚させられることに!?多くの読者に愛された名作が復刻版で登場! (AMAZON解説より)』