天子蒙塵 第三巻 / 浅田次郎
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浅田次郎先生のライフワークとも言える、中国史シリーズ「蒼穹の昴」「中原の虹」に続く「天子蒙塵」も早や第三巻。読まねばと思いつつ、他に積読が多くて後回しになっていたが、この壮大なシリーズの完結巻になるという噂の第四巻の予約が始まっているという事で取り急ぎ読んでみた。
今更ながら、の感があるが、作者紹介を読んで驚いた。
「蒼穹の昴」 → 第一部
「珍妃の井戸」 → 第二部
「中原の虹」 → 第三部
「マンチュリアン・リポート」 → 第四部
「天子蒙塵」 → 第五部
なんだそうである。どう考えても「珍妃の井戸」はスピンオフものだし、「マンチュリアン・リポート」に至ってはRough and Readyの駄作で浅田先生ほどの方なら無かったことにした方がいいんじゃないかという作品。
まあその超駄作は置いておくとしても、私個人の評価としては「蒼穹の昴」が完璧な浅田先生の代表作で、「中原の虹」は後半息切れ気味。そして「天子蒙塵」は率直なところ全然面白くないなというのが第一、二巻の印象で、とにかく早く面白くなってくれ、と願っていた。
が、第三巻は残念なことに益々失速気味。最終巻へのブリッジだとしてもあまりにもヤマがない。
何しろ、愛新覚羅溥儀と張学良の回想とぼやきで前半三分の一が過ぎてしまうのだ。それを過ぎてようやくお馴染みの面々(李春雷、志津、吉永、酒井、馬占山等々)が出てくるが、かといって本巻に劇的な事件・出来事はない。
満州事変は過ぎているし、満洲国は建国されたものの溥儀はまだラスト・エンペラーとはなっていない。ましてや西安事変はまだまだ先のようだ。
実在の人物として川島芳子、ココ・シャネルが出てくるが、キーパーソンと言う訳でもない。嬉しいキーパーソンとして張作霖の五番目の妻、女傑寿梅明が登場する程度。
それなのに一方で、新しい架空の男女(駆け落ち)と少年二人(それぞれ家出)が満洲へやって来て話を動かすことになる。次巻が最終巻だというのに大丈夫なのか。
そして最も肝心な龍玉も春雷が隠したまま、一向に誰の手に渡るか分からない。まさかとは思うが、あの男に渡るのでは、という危惧も抱かせる。あの男に渡るくらいなら粉々に砕けて天に還る方がよほどいいと思うが。
浅田節も随所に出ては来るが、どうも湿りがちだし、贔屓の引き倒し的な人物描写は鼻につく。とりあえず張学良が帰国するので次巻で物語が大きく動き、最後に浅田先生流の感動の大団円となることを祈るのみである。
『新天地から始まる果てしなき道へ。 「馬賊の歌」も高らかに、日本を飛び出した少年二人、妙齢の美男美女は駆け落ちか。 満洲の怪人・甘粕正彦、男装の麗人・川島芳子も加わり、新たな登場人物たちが、それぞれの運命を切り拓くため走り出す。 満洲ではラストエンペラー・溥儀が執政として迎えられ、張学良は妻子を連れヨーロッパへの長い旅に出ていた。 日中戦争以前に何が起こっていたのか? 伝説のベストセラー『蒼穹の昴』シリーズ第5部。著者ライフワークはいよいよ昭和史の「謎」に迫る。(AMAZON解説より)』