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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

月の輝く夜に/ザ・チェンジ / 氷室冴子

⭐️⭐️⭐️

   今年は氷室冴子没後10年とのこと。私はコバルト文庫には縁がなく一冊も読んだことがなかったが、ジブリの「海がきこえる」もこの人の作品だと「本が好き!」で全作レビュー中のあかつき姐さんに教えてもらった。ついでに、初めて読むのなら何がいいか訊いてみると、シリアス+コミカルのバランスがいいこの作品がいいとのこと。おかげさまで初氷室冴子はなかなかに楽しめた。

 

月の輝く夜に: こちらはシリアス。源氏物語少女小説風にするとこういう感じになるのだな、と納得。不穏な空気を孕みつつ静かに物語は進み、最後の最後に主人公がチラ見で懸想していた男の正体が明らかになる、結局出てくる女たちの誰も幸せにはなれない、という展開を平安絵巻のように読ませる氷室冴子の筆力はなかなかのもの、好短編だと思った。にしても、年の離れた恋人、こいつが実は一番曲者だな。

 

ザ・チェンジ: うって変わってこちらは抱腹絶倒のお笑い平安絵巻である。なるほどなあ、これが氷室冴子の陽の部分なのだな。

  早い話が、氷室版「とりかへばや物語」なのであるが、綺羅姉弟、今上(帝)、女東宮、三の姫、宰相中将、等々主要登場人物のほとんど皆が皆、勝手な思い込みと勘違いのオン・パレード。まあアホ臭いことこの上ないのだがそれが笑える。これがコバルト文庫の軽みと面白みの面なんだろう。

  かわいそうなのは綺羅姉弟の父の左大臣。エキセントリックを絵に描いたような二人の妻に挟まれ、おとこおんな、おんなおとこ二人の子供の大騒動に巻き込まれてぶっ倒れてしまうのは哀れであった。

 

あと二品はおまけ、的な感じ。

 

少女小説家を殺せ!: 自らをカリカチュアライズした超アブナイエキセントリック小説家火村彩子に翻弄される主人公。もろ自虐ネタのお笑い小説。カラッと笑って後にナ~ンにも残らないのがいいところ、といえばいいところか。  

  内容には関係ないが、これを読むと氷室さん北海道出身みたいだから調べてみたら藤女子大のご出身。中島みゆきとは5歳年が違うから、接点はおそらくなかったんだろうな。

 

クララ白書番外編 お姉さまたちの日々: クララ白書を知らないから何とも言えないが、お笑いタカラヅカ系的な。人物造形がステレオタイプで、それを楽しむんだろう。

 

 

十七歳の貴志子は、親子ほどに歳が違う恋人の有実から、彼の娘の晃子を預かってほしいと頼まれた。晃子は十五歳。気が進まなかった貴志子だが…?表題作『月の輝く夜に』のほか、同じく文庫未収録作品『少女小説家を殺せ!』『クララ白書番外編 お姉さまたちの日々』を収録。そして文庫・単行本で134万部を記録した不朽の名作『ざ・ちぇんじ!』上下巻を併せた、氷室冴子ファン必読の一冊。 (AMAZON解説より)』