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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

逆説の日本史21幕末年代史編IV / 井沢元彦

⭐️⭐️⭐️

   井沢元彦の逆説の日本史、幕末年代史編もいよいよ大詰めに入った。前巻の大混乱期に続いて1865年から1869年まで、日本史史上最高の激動期で、薩長同盟の成立、四境戦争(第二次長州征伐)、大政奉還王政復古鳥羽・伏見の戦い慶喜遁走、江戸城無血開城上野彰義隊の壊滅、会津戦争、そして明治への元号改元明治天皇即位と息つく暇もないほどその後の日本を決定する大事件が連続する。

 

  このあたり「尊王攘夷」~「薩長同盟」~「明治維新」と事実の羅列だけで学ばせられる社会の教科書に沿っただけの授業では本当にわかりにくい。敵味方、攘夷開国が目まぐるしく変化するのを把握するのは中学生であった私には本当に難しかった、というか謎であった。それを助けてくれたのは司馬遼太郎先生をはじめとする幾多の小説群であったが、いまならこの井沢氏の本を読むのが一番合理的にかつ脚色なしにこの激動の時代を把握できるのではないかと思う。

 

  そしてこの間、前巻に引き続いて多くの著名人が死んでいる。一番の大物は高杉晋作坂本龍馬中岡慎太郎であろうが、一番気の毒なのは赤報隊相良総三であろう。薩摩に踊らされ、騙されたうえでの惨死はそれこそ祟りを恐れても不思議はないのだが、「卑怯者、陰険な」薩摩の西郷大久保にとっては何ほどのものでもなかったようである。

 

  高杉晋作については病死で間違いないのだが、今でも犯人探しが盛んなのは坂本・中岡の方である。これに関しては中岡慎太郎の証言や、後年の今井某の供述によりなどにより見回り組の犯行とされている。それでは面白くない人々がいろいろと推理するのだが、井沢氏の論旨は面白みはないが明快で説得力がある。それは読んでのお楽しみということで。

 

  今回敢えて不満を挙げるとすれば、銀英伝を読み終わったばかりでもあり、幕末のヤン・ウェンリーともいえる大村益次郎の戦術をもう少し詳細に語ってほしかった。

 

  巻末が近づくにつれ、井沢氏得意の怨霊祟り信仰が今回は出てこないのかなと心配していたが、最後にどんと出てきた。孝明天皇の死後跡を継いだ明治天皇であるが、実は践祚しただけで、明治に元号改元したのは、ほぼ日本の趨勢が「新政府軍」に決定した2年後の慶応4年8月27日である。その前日8月26日が重要。この日は逆説の日本史思想を貫く「大魔王崇徳院の命日なのである。このあたりの詳細を述べて、幕末年代史編は幕を閉じる。

  賛否両論はあれ、井沢氏のぶれない日本史観に基く、見事な締めであった。

『怒濤の「幕末年代史編」堂々完結! 『週刊ポスト』誌上で好評連載中の歴史ノンフィクション『逆説の日本史』。ペリーによる黒船来航から始まった「幕末年代史編」最終章が、満を持して文庫化されました。 長州の高杉晋作が正義派(討幕派)を率いて功山寺で挙兵した1865年から、翌年の薩長同盟成立を経て、大政奉還そして王政の大号令へ。そしてついに明治維新がなった1868年までの激動の4年間を詳説。「高杉晋作は本当に“長州絶対主義者”だったのか?」「“犬猿の仲”であった薩長を接近させた坂本龍馬の“秘策”とは何だったのか?」「“孝明天皇暗殺説”は信じるに足る学説なのか?」「官軍に対する“江戸焦土作戦”とは勝海舟のブラフだったのか?」などなど、歴史の狭間に埋もれがちな数々の謎と疑問を、切れ味鋭い「井沢史観」で解き明かします。 維新から150年。「明治維新とは一体何だったのか?」について、あらためて考え直すための最良の一冊です。(AMAZON解説より)』