Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

李陵 山月記 / 中島敦

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

  先日読んだ万城目学の「悟浄出立」、その表題作の執筆動機となった中島敦の「悟浄出世」を探していたところ、この小学館文庫に収録されていた。

 

  迷いに迷って、偉い先生(と呼ばれている人)の元を次から次へと訪れ教えを乞うても、自分というものへの確信や生きている意味など一つも得られなかった沙悟浄が、三蔵法師に従うことにより少し気が楽になる、という話はやや説教臭い感じがしなくもないが、なかなかに凝った面白い話ではあった。

 

  そしてやはり中島敦は文章・文体だ。漢文調でありながら、まごうかた無き全き日本語。居住いを正さずにはおれないほど、その文章は折り目正しく美しい。

 

  代表作の「李陵」「山月記」「弟子」はその極みであろうが、表題作や「牛人」「名人傳」「盈虚」といった春秋左氏伝、列子などに題材をとった商品にも遺憾なく発揮されている。

 

  美しく端正な日本語を読みたければ中島敦である。

 

 

前漢武帝の時代。侵略をくりかえす匈奴を討つために北辺の地へ向かった李陵であったが、やむなく捕虜となってしまう。そしてその李陵を弁護した歴史家・司馬遷は、宮刑に処され──。 時代の波に翻弄される男たちの姿を描き、“人間の真の美しさ”を問う「李陵」、己の自尊心のために虎の姿になってしまった詩人・李徴の苦悩を綴った「山月記」など、漢籍に材を採った作品全七篇を収録。(AMAZON解説より)