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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ / イリーナ・メジューエワ

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    ロシア出身で現在は日本在住の名ピアニスト、メジューエワさんのピアノ曲解説本。ピアニストの視点からの解説はさすがに鋭い。

 

 

  とは言え、彼女は日本語で文章は書けないので、編集者と家人の力を借り、語りのセッションを9回繰り返して完成させたそうです。その分だけ彼女の言いたいことを編集者が対談的な語り口で書いてくださっているので、素人にも意外に分かりやすい内容となっています。もちろんプロにはプロの読み方があり、レベルに応じて理解度は違うと思いますが。

 

  取り上げられているのは

 

バッハ: 「平均律クラヴィーア集」「ゴルトベルク変奏曲

モーツァルト: 「ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」」

ベートーヴェン: 「ピアノ・ソナタ第14番「月光」「ピアノ・ソナタ第21番」

シューマン: 「子どもの情景より「トロイメライ」」「クライスレリアーナ

ショパン: 「別れの曲」「ピアノ・ソナタ第二番」

リスト: 「ラ・カンパネラ」「ピアノ・ソナタロ短調

ムソルグスキー: 「展覧会の絵

ドビュッシー: 「月の光」

ラヴェル: 「夜のガスパール

 

と、バロックから現代まで歴史の要点を押さえた選曲。特にバッハ平均律が「旧約聖書」と呼ばれ、ベートーヴェンピアノ・ソナタが「新約聖書」と呼ばれるほど、ピアニストにとって大事なのか、がよく分かる解説でした。

 

  ピアニストならではの視点も満載。現代音楽の基礎を築いたバッハも「手の感覚」で作曲していたと感じるところや、ショパンベートーヴェン両方をやる人は少数派でそれは二人のぴあニズムアがあまりに違うから。ポリフォニーの発想が違いすぎると語るところなど。

 

  そのような理論を越えた感想も面白い。お暗示ロマン派でもショパンはリアリスト、シューマンは現実を超えた世界に憧れて飛んで行って、結局クレイジーになってしまったとか。その他にもクスッと笑えるようなエピソード満載。

 

  そしてやはり彼女の故郷ロシアの音楽である「展覧会の絵」の解説は力が入っています。彼女の演奏を聴きたくなりました。

 

  推薦盤も参考になります。全然違うスタイルのような気がするアファナシエフを尊敬しているところにはちょっと驚きました。一方で彼女の正確かつダイナミックなスタイルから連想させるリヒテルが多く出てくるところは納得。ちょっと残念なのは、彼女の推薦する演奏にあまりにも古い演奏者が多い事。コルトーやユーディナなど、チョイスはなるほどとは思いますが、プロの方には勉強にはなっても、私のようにオーディオマニアで聴く方専門の者にはもう少し新しい録音を取り上げてほしかったです。

 

  まあ、彼女のアルバムを集めて行けばいいんですが(笑。