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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

イリーナ・メジューエワ・プレイズ・ベーゼンドルファー

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  ロシアの名ピアニストで現在日本で活躍中のイリーナ・メジューエワさんが大好きで、若林工房というレーベルが録音・音質にこだわって作っているアルバムをぼちぼち集めています。今回はいつもはNYスタインウェイを使っておられるメジューエワさんがウィーンの至宝ベーゼンドルファーを弾くとどういう感じで鳴るのか興味があってこのアルバムをチョイス。

 

  ベーゼンドルファーは会社としては今はもうヤマハの子会社となっていますが、ピアノ自体はやはりウィーンの至宝と言っていいでしょう。低音鍵が他のピアノより多いことで有名ですが、今回使われたのはModel 275で、92鍵。

 

  ベーゼンの特徴としてその低音の深さ、響きの豊かさと、高音部の美音が有名ですが、一方で欠点としてやや立ち上がりが遅いことが挙げられます。よってメジューエワさんがこれまで弾いてこられたヴィンテージNYスタインウェイヤマハCFXとは異なったテクニックを必要としますし、合う曲合わない曲があることも事実。

 

  しかし、全く心配不要でした。冒頭の分散和音からしてベーゼン!ベートーヴェンの「テンペスト」ですが、その後の深みのある落ち着いた低音、磨き込まれた珠のような美しい高音、素晴らしい演奏です。メジューエワさんの手にかかるとここまでの音が出るんですねえ。立ち上がりが遅さも熟知して、高音の高速パッセージに低音の深い響きを見事に合わせるテクニックを早速見せてくれます。ホント、どんなテクニックを使っているか見てみたいほど。

 

  この「テンペスト」三楽章だけでも圧倒されますが、それ以上に合っているなと思うのはベーゼンを世界的に有名にしたリスト。シューベルト曲の編曲「連祷」、「巡礼の年」からの「エステ荘の噴水」、ワーグナー曲の編曲「ゾルデの愛の死」、このリスト三連発。彼女の打鍵の強さから来るダイナミックな展開が、曲ごとに増していく様は圧巻。

 

  そしてベーゼンは録音も難しいはずですが、それも杞憂でした。録音場所は相模湖交流センターで、日本コロンビアスタッフによる一発どり。ホールトーンも綺麗に乗っていますし、もちろん彼女のテクニックあってこそですが、音の濁りの無さ、こもりの無さ、素晴らしいです。

 

【収録曲】
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト
シューベルト即興曲 変イ長調 作品142-2
シューベルト=リスト:連祷
リスト:エステ荘の噴水
ワーグナー=リスト:イゾルデの愛の死
ドビュッシー:沈める寺
ラフマニノフ:プレリュード 作品32-12

イリーナ・メジューエワ (ピアノ… ベーゼンドルファー Model 275)
録音: 2017年4月23日、相模湖交流センター