Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

アノニマス・コール / 薬丸岳

⭐︎

  本が好き!で塩味提督が褒めておられた本。ブックオフ で見かけたので買って読んでみた。よくできた和製ハードボイルド風味誘拐ミステリではあるのだが、私には合わないなあ、というのが率直な感想。

 

  いきなり不祥事で警察を辞め離婚もしたらしい中年男が、派遣生活で男やもめで飲んだくれて荒れた生活を送っている。日本のミステリー本にはこういうのがやたら出てくるが、個人的にはうんざり。すえた匂いさえ漂ってくるようだ。

 

  その後、いきなり娘の誘拐劇が始まり、延々と最後まで犯人・主人公たち・警察三つ巴のチェイスが展開される。出てくるキャラクタやストーリーはよく考えよく練られていて楽しめる。しかし、どうもいろんなTVドラマを継ぎ接ぎしたみたいな感じが否めない。文体に伊坂幸太郎のような際立った個性というものがないのも文章フェチには辛いところ。

 

  犯人の意外性というところに重きを置いた話という印象なのでネタバレは極力避けるが、

 

ええ、たった○人で、それも一人はど○人じゃん

 

というのが正直な感想。これだけの誘拐劇を仕組み主人公たちや警察を翻弄するのにはちょっと無理があるんじゃないだろうか?

  犯人は主人公と元妻の個人情報を驚くほど詳細に知っていることから、身内(と言えば一人しかいないのだが)に犯人がいると考えた方がよほど合理的だと思う。その一人は確かに事件に無関係ではなかったのでやっぱりな感はあったのだが、役どころとしては弱い気がした。

 

  また、これだけはネタバレしないと感想にならないので書いてしまうが、事件の遠因となる犯罪を犯していたのが政治家の大物、隠蔽しようとするのが警察組織、ってのはもう手垢がつき過ぎているネタでしょう。卑近なところではTVドラマ「相棒」で何度見たことか。

 

  暴力シーンには職業柄言いたいことが山ほどあるが、まあこれは言わないお約束だろう。

 

  ということで、どうも私にはこういうよく言えば正道、悪く言えばステレオタイプな和製エンタメミステリは合わないよう。文体によほど特徴があるか(ex.伊坂幸太郎)、よほどの筆力があるか(ex.高村薫)でないと手をつけない方が無難だと思った。

 

敵は警察と誘拐犯。娘をさらわれた元警察官の執念の追走劇が幕を開ける! 3年前の事件が原因で警察を辞めた朝倉真志は、妻の奈緒美と離婚、娘の梓と別居し、自暴自棄な生活を送っていた。そんなある日、真志の携帯に無言電話がかかってくる。胸騒ぎがして真志が奈緒美に連絡すると、梓の行方がわからなくなっていた。やがて、娘の誘拐を告げる匿名の電話が奈緒美のもとにかかってきて、真志は過去の事件へと引き戻されていく。一方、真志を信じられない奈緒美は、娘を救うため独自に真相を探り始め――。誘拐犯の正体は? 過去の事件に隠された真実とは? 予想を裏切る展開の連続と、胸を熱くする感涙の結末。社会派ミステリの旗手による超弩級エンタテインメント! 作家生活10周年記念作品。(AMAZON解説)