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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

絵を見る技術 名画の構造を読み解く / 秋田麻早子

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  絵画を見るのが好きで、よく美術展に行く。始まりは学生時代に美術教科書で見たモネの「日の出 ー印象ー」だったが、そこから印象派〜ポスト印象派キュビズムバウハウス〜モダンアート等々と派生していった。

 

  逆に時代を遡るのは苦手で、西洋のいわゆる古典的名画を軽視している面があったのは否めない。だから、名画を「見る技術、規則」的なものを系統だって勉強したいとかねがね思っていた。そんな折り、アマゾンの宣伝メールで見かけたのがこの「絵を見る技術」。もうタイトルがズバリ私の望むものであり、速攻で購入した。

 

  著者の秋田麻早子さんはアメリカで美術史学を学ばれた方で、そういうプロに言わせると、美術教育を受けた人と受けてない人では絵の見方が全く異なるそう。

  素人は“見ているけれど観察していない”、シャーロック・ホームズの観察とワトソンの見ているだけとではそこから得られる情報が全く違ってくるのと同じ、ということになるらしい。

 

  では、見る技術(ヴィジュアル・リテラシー)はどうやって習得すればいいのか?これまでも専門家による「対話型鑑賞」「Art of Perception」など、いくつかの方法が提案実践されてきたそうである。そしてそのような方法で増えた情報量をどう分析評価して処理していくのか、それが今回秋田さんが章立てして紹介されている「観察のためのスキーム」。

 

  箇条書きにすると

 

1: まず絵の中の「主役」はどこか、その判断のしかたを習得する

(フォーカルポイント)

2: 次いで、絵の中にある見る順路を示した「経路」を見つける

(リーディングライン)

 

これで美術教育を受けた人と同じ見方ができるようになる。次いで、

 

3: 「バランスがいい」と言われるとき、具体的にどう測って判断するか(バランス)

4: 「色」の働き、さらには「絵具」という物質について考える(絵具と色)

5: ここまで見てきた要素を画面の中にどう配分するかー比例の果たす役割を知り、名画の裏にある構造を知る(構造と比例)

 

ここまでで基本はおさえた。そして最後に

 

6: そして最後に「表面的な特徴」と「構造」を分けて考える。

 

  これらを学んだ上で名画をあらためてじっくりと観察すると絵がどんな風にデザインされているのかがわかり、名画の何がどう凄いのか理論面から理解できる。そうすれば、翻って自分が今まで名画に感じてきたことが絵の何を見て得られたことなのかがわかるようになる。つまり「自分の感性がどういうものなのか、具体的に把握できる」ということになるのだ。

 

  実は今述べたことは、序章において簡略にまとめられている。よってはじめこれを読んだときは、ふんふんなるほど、それくらいは無意識のうちにやってるんじゃないかなあ、と思っていた。

 

  しかし、第1章から順番に名画を具体的に見ていくにつれ、それがただの過信であることを思い知らされた。本当にわかりやすく、しかも目からウロコの驚きをもって絵の見方がわかってくる。つまり

 

今まで全然分かっていなかったことが分かってくる

 

これは本当に驚いた。数多の例の中から三つ画像を添付。

 

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ホーホ「「デルフトの裏庭」フォーカルポイントとリーディングライン、ストッパー、奥行き

 

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  ああ、展覧会に早く行きたい!

 

 

この絵の主役はどこ?バランスがいいってどういうこと?センスとロジックをつなげるビジュアル・リテラシーの教室。