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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

やなりいなり / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️

  しゃばけシリーズも第十巻、例によって五つの作品が並ぶが、今回の特徴は「料理」。しゃばけシリーズのお楽しみである江戸時代の料理、それを今回は各作品に活かし、レシピを冒頭に掲げている。さらに解説では東京大塚の江戸前料理店経営の料理家福田浩さんが作られた料理、「若だんなの朝ごはん-とうふづくし-」を畠中さんが召し上がるという趣向。羨ましい(w。

 

 偶然みかけた美しい娘に、いつになく心をときめかせる若だんな。近頃日本橋通町では、恋の病が流行しているらしい。異変はそれだけに止まらず、禍をもたらす神々が連日長崎屋を訪れるようになって…。恋をめぐる不思議な騒動のほか、藤兵衛旦那の行方不明事件など、五つの物語を収録。妖たちが大好きな食べものの“れしぴ”も付いて、美味しく愉快な「しゃばけ」シリーズ第10作!

 

こいしくて」 料理:小豆粥

  長崎屋のある日本橋通町ではこの頃病は病でも「恋の病」が大流行。一方、長崎屋の病弱な若だんな一太郎のもとには、疫神、禍津日神(まがつひのかみ)、時花神(はやりがみ)、疱瘡神、風伯(ふうはく)と次から次へ来て欲しくない厄災の神々が訪れる。

  どうも通町へ通じる大きな橋、日本橋と京橋のうち、京橋の橋姫がよく通る神の誰かに片想いをして、結界を張るのを放棄したためらしい。さて、それは誰か、その騒動の顛末は?

 

やなりいなり」 料理:鳴家稲荷

  長崎屋の奥方に仕える守狐が、若だんなに元気を出してもらおうと鳴家稲荷(やなり稲荷)という細めで海苔で鳴家の顔が描かれたいなりを持ってくる。例によって例のごとく若だんなの前に鳴家たちが群がるが、そこに一本の手が伸びている。幽霊だ。若だんなは寛朝の護符を貼ると、幽霊は正体を現す。溺れ死んだ噺家らしいが、その噺家もなぜ死んだかよくわからない。

  あれこれ調べているうちに幽霊がまだ生き霊で近くの長屋で意識が戻らぬまま師匠の娘に看病され続けているらしいと判明。しかし何故か幽霊は長崎屋に居続けたがる。

 

  人情噺と捕物帖がうまくミックスされて、最後はいつものように日限(ひぎり)の親分の手柄となる。安定調和の上手い話。

 

からかみなり」 料理:栄吉のあげ出しいも

  雨が降らず雷の音だけが響く、からかみなり(空雷)。江戸の空にその雷鳴が響き渡るところから話は始まる。長崎屋の主人藤兵衛が出先でその空雷を聞いた後、一緒だった小僧の梅丸と別れた後、三日間戻らないという事態が勃発。

  心配な若だんなは探しに行きたがるが、手代二人が許すはずもない。貧乏神金次の提案で妖たちと賑やかな推理合戦が始まる。屛風のぞき、守狐、若だんな三者三様の推理は面白くはあるものの、若だんなが正解するのはお約束、ちょっとマンネリ。その後の展開はビリビリ感満載で楽しめるけれど。

 

長崎屋の卵」 料理:長崎屋特製、ゆでたまご

  「からかみなり」と同じく天から何かが降ってくる。今度は茜色の夕焼け空の雲から。そして途中に「こいしくて」のエピソードも挟まれる。そういう意味では緩やかな連関をなしていて楽しめる。とは言え、いささか食傷気味のネタでかつ長い。ちょっとシンドイ。

 

あましょう」 料理:お酒大好き妖の、味噌漬け豆腐

  ラストはなかなかに泣かせる人情噺。あましょうとは雨性のこと、雨男雨女の類。最後にこんな粋な文章がある。

 

 実際、新六は目に涙を溜め、拭いもせず流しはじめていた。五一という雨性な男が、天に雨雲を連れてきて、顔に降らしたかのようであった。

 

  安野屋に菓子作りの修行に出た親友栄吉を久しぶりに訪ねた若だんな。だが、生憎と栄吉は忙しくて相手ができない。それもそのはず、近くの浜村屋の長男新六が大量に菓子を買い込んでいる。その新六、ついてきた親友の五一と口喧嘩を始め、やかましくてしょうがない。堪りかねた安野屋の主人は栄吉に浜村屋へ商品を運ぶよう新六のお供をいいつける。栄吉と話もできずに帰るのは嫌だと若だんなは栄吉についていくが、新六と五一の喧嘩は一向に収まらず、、、

 

  二組の親友の物語。最後は吉本新喜劇ばりのベタな展開になるが、その後に明かされる五一の真相、そして上に掲げた引用文にホロリと涙。

 

  というわけで、このシリーズもそろそろ胸突き八丁にかかってきた。あと少し頑張ろう。