Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

小鳥たち / 山尾悠子、中山多理

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

  山尾悠子待望の新刊である。今回は人形作家の中川多理さんとのコラボレーションで、作品数は掌編三編と少ないが、中川さんの「小鳥たち」や「老大公妃」の人形の写真が多数挿入され、「怖いけれど美しい」という共通する個性が共鳴し合い、とても素晴らしい作品となっている。

 

  山尾悠子の作品は三編。その冒頭の一文。

 

   小鳥のやうに愕き易く、すぐに動揺する性質(たち)の水の城館の侍女たち、すなはち華奢な編み上げ靴の少女たちは行儀よく列をなして行動し、庭園名物の驚愕噴水にうかうか踏み込むたび激しく衝突しあふのだつた。

 

  このように珍しく旧仮名使いながら紛れもなく山尾悠子の文章の「小鳥たち」、元の語り口に戻った第二作「小鳥たち、その春の廃園の」、そして書き下ろしで最も長い第三作「小鳥の葬送」と続く。そしてその間に中山さんの人形の写真が多数挿入される。

  このような連環で互いにインスパイアしあいながら紡ぎだされる山尾さんの文章はますます磨きがかかり美しい。今回のメインイメージは水と空。特に「水の城館」の噴水、庭園、グロッタ、小鳥の侍女たちが飛翔する空、幾星霜経たかわからない廃園の描写が見事。
  中山さんの人形では、最後の老大公妃黒侍女が見事で、山尾さんの物語世界のイメージを驚くほど見事に体現しており、これには山尾さんもあとがきで驚愕したと絶賛されている。

 

  最後に特筆すべきは、ミルキィ・イソベ氏主宰のステュディオ・パラボリカ実に丁寧な製本。紙質、綴じ方、文章の配置、フォント、写真の色彩、構成、配置、全てに神経が行き届いており、これこそ電子書籍では無く、紙の書籍として買う価値がある、と思わせてくれる。これほど綺麗な綴じ糸を見たのは久しぶりだ。

f:id:moonmadness:20190807164337j:plain

ピンクの綴じ糸

 

降りそそぐ小花、時空はゆらぎ、 小鳥の侍女たちが行き交う庭園と城館。 そこは迷宮? 小説と人形が織りなす奇蹟の幻想譚。 第46回泉鏡花文学賞受賞作家 山尾悠子の最新作! ! あらたな領域に踏み入る記念碑的小説である。 ★物語と人形たち まず山尾悠子による「小鳥たち」という掌篇が書かれ、登場する小鳥たちを人形作家の中川多理が創作した。その人形作品を踏まえて『夜想#中川多理―物語の中の少女』に続編「小鳥たち、その春の廃園の」が書かれ、再び呼応して新たな人形が作られた。 それを受けて、最終章「小鳥の葬送」が書き下ろされ、ついに中川多理の手から大公妃が産み出された。 ★摩訶不思議な幻想小説の奇蹟の成立 山尾悠子の幻想譚は、場面が揺らぐように紡がれていき、確かにそこに伽藍はあるのだけれどもこちらの認識が朧になるという快楽性をもっている。構造はあるが、揺らいでグラデーションでずれていく。その揺らぎに現実の人形が参加しているのだ。 母、娘、そして侍女……幻想の物語、幻想の人形そして幻想の本として収斂する『小鳥たち』。