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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

クジラアタマの王様 / 伊坂幸太郎

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  伊坂幸太郎の新作書き下ろし長編。彼の新作といえば「シーソー・モンスター」をレビューしたばかりだが、あちらは螺旋プロジェクトの一環で、こちらは単独作品。伊坂さんこの頃ハイペース。そういえば「シーソーモンスター」の「アイムマイマイ」という絵本がこっそりと一度だけ出てくるので、そちらのファンはお見逃しなく。

 

  さて、この小説、伊坂幸太郎が長年温めていた構想である、アクションシーンに作品の一部としてコミックパートが含まれる構造となっている。ちょうど一気に読みきれれる分量毎に挿入されるので、絶妙のアクセントとなり、かつ「夢」パートのアクションの理解を助けており、いつも以上にテンポがいい。そしてそのコミックパートを担当した川口澄子さんのイラストがバンドデシネ風でこれもこの作品の魅力となっている。

 

  さて、物語のきっかけは某製菓会社にかかってきたクレーム電話と、新型インフルエンザに対する日本人の過剰反応。いかにも社会派伊坂幸太郎らしい題材だが、これも伊坂らしく、こういう風に料理するのか〜、と感心するやら呆れるやら、このあたりがAMAZONのレビューなんかを見ても、賛否両論分かれている。

 

  主人公は、製菓会社広報部員君、人気ダンスユニットメンバー小沢ヒジリ、そして都議会議員池野内征爾の三人。ちなみに伊坂が大ファンである楽天イーグルス岸孝之投手、引退した聖澤選手から名前を頂いたそう。ちなみに小澤征爾のファンかどうかは書いてない。

 

  で、岸君の製菓会社のマシュマロ新商品が小沢ヒジリのクチコミで爆発的人気となり、一方クレーム電話を入れてきたのが池野内の妻だった、というところからいくつかの経緯を経てこの3人が出会い、本格的に話が動き出す。そしてこの三人が偶然8年前に金沢の同じホテルに宿泊しその夜に起こった火事を経験していたという事実が浮かび上がってくる。

 

  そこからシリアスな方に振れないのがいかにも伊坂。池野内が言うには、この三人が「」の中で勇者として怪物と戦っている。そして夢の中で怪物を倒すと現実世界が良い方向に変わるんですよとのこと。そして金沢の夜も夢の中で三人がオオトカゲと戦って倒したので皆が助かったのだと主張する。夢のことは覚えていないタイプの岸君は半信半疑、でも、何かそういう感じの記憶がないでもない。小沢ヒジリははっきりと夢を覚えているタイプで、その通りだという。

 

  なんとも珍妙と言うか不思議な展開で、池野内の言う通り、夢の中の世界のモンスト的戦闘と現実の事件がリンクして話が進み、モンスターを倒すたび現実の事件が良い方に解決して第三章までが終わる。もちろん伊坂風のライトでユーモアに富んだ語り口なのだが、そんなわけで今回はちょっとシュールな雰囲気も漂う。

 

  そして最終第四章は一気に15年が経過している。夢の中で「クジラアタマの王様」という学名を持つモンスターに三人は叩きのめされて敗北。それとともに現実でとんでもない厄災が降りかかる。はたして三人は双方の世界で巻き返すことができるのか?


  出たばかりでネタバレはやめておくが、さすが伊坂、前半でばらまいていた伏線を次から次へ回収していく。というか、あれもこれも伏線だったのか、と唖然とするほど。

  その中でも15年後に社長となっている人物が今回はなかなかイケてた、と思う。

 

  というわけで374Pある大作だが、あっという間に読みきってしまった。賛否両論あるにせよ、さすが伊坂だと思うし、かつ螺旋プロジェクトと言い、コミックパートの挿入と言い、常に新しい挑戦をやめない姿勢は高く評価したい。

 

待望の最新書き下ろし長篇小説。巧みな仕掛けとエンターテインメントの王道を貫いたストーリーによって、 伊坂幸太郎の小説が新たな魅力を放ったノンストップ活劇エンターテインメント。 異物混入、政治家、アイドル、 人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥――。 伊坂幸太郎の神髄がここに。(AMAZON