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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

いっちばん / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️

  しゃばけシリーズ第七作。安定の短編五編構成。にぎやかに妖勢ぞろいで始まるが、後半はちょっと退屈、このシリーズのお約束の設定に沿った話でまあまあ予定調和の世界。

 

兄の松之助が長崎屋を出て所帯を持ち、親友の栄吉は菓子作りの修業へ。普段から病弱な若だんなは、さらに寂しそう。妖たちは若だんなを慰めようと、競って贈り物探しに出かけるが。長崎屋と商売がたきの品比べに、お雛をめぐる恋の鞘当て、果ては若だんなと大天狗の知恵比べ―さて勝負の行方はいかに?シリーズ第七弾は、一太郎の成長が微笑ましく、妖たちの暴走も痛快な全五編。

 

 「いっちばん

  腹違いの兄松之助が結婚して分家、親友栄吉は菓子作りの修行に出て、若だんな一太郎は寂しい。お金にやや汚く長崎屋で出る菓子が大好物の岡っ引き、日限(日切)の親分くらいがやってくる話し相手。ところがその親分も最近はやりの掏摸の目星はついているのに確証がないため捕まえられず元気がない。

 

  妖たちは若だんなを慰めようと、若だんなは日限の親分の窮地を救おうと、例によって例のごとく大騒動に。今回は妖が勢ぞろい。鳴家、屏風のぞき、鈴彦姫、獅子、野寺坊、獺、蛇骨婆、猫又のおしろたちみんなよってちょっと間抜けでユーモラスな活躍ぶり。僧寛朝や仁吉、佐助まで巻き込んで最後は見事な大捕物となり、また日限の親分の手柄が一つ増えるのであった。

 

いっぷく」  長崎屋の近くに、二軒の唐物屋が開店した。西岡屋、小乃屋といい、どちらも近江から上京し江戸に店を構えたのだが、その二店の間には微妙な敵愾心がある模様。それはさておき、この二店、早く常連をつけたく、廻船問屋として流行っている長崎屋に目をつけ品比べを主人の藤兵衛に持ちかけてくる。長崎屋側としてはいい迷惑だが、藤兵衛は引き受ける。

 

  一方で日本橋界隈に妖の噂が最近立っていて、妖と暮らす若だんなとしては店の評判に傷がついてはいけないと気を揉んでいる。誰が流しているのか?どうも件の小乃屋の息子、七之助が怪しい。で、探りを入れに妖たちが走るが、なんと一匹の鳴家七之助に捕まってしまう。ところがこの七之助、単純に敵ではないような様子。

 

  オチには前作「ちんぷんかん」の「鬼と小鬼」に出てきたキャラクタが再登場、若だんなと涙の再会を果たす。誰かは両方読んでのお楽しみ。

 

天狗の使い魔

  いきなり天狗に攫われた若だんな。天狗と狛犬と神使狐の喧嘩に巻き込まれ。。。う〜ん、いささか話が冗長で退屈。

 

餡子は甘いか

   題名でもう想像がついてしまうが、一太郎の親友で菓子作りの修行に出た栄吉の挫折と奮闘のお話。栄吉の作る餡は壮絶に不味いというシリーズ当初の設定が延々と踏襲されており、もういささか鼻についてしまう。まじめに何年も菓子餡の作り方を勉強し修行を重ねていて、味の変な餡しか作れないなどいくら何でもありえないだろう。

 

ひなのちよがみ

  紅白粉屋の白塗りお化けことお雛さんが主役。付喪神屏風のぞきとの一件で白塗りをやめ薄化粧にしたお雛さんはとても綺麗。だから長崎屋に現れたお雛さんがだれか皆分からない。でも若だんなはあっさり一目でお雛さんだと分かる。おまけに母のおたえは変わったとも何とも言いさえしない。このあたりの機微はとても上手い。

  肝心の話はお雛さんが長崎屋も焼け出されたあの火事で傾いた店の経営を手伝おうと奮闘する中で、お雛さんや婚約者、そして若だんなも仁吉と佐助に商売の難しさを教わっていくという筋立て。なかなかうまいとは思うがこの期に及んでまた白塗りを持ち出すのはちょっとどうかなと思う。

 

  シリーズもちょうど真ん中あたりだが、ちょっと難しい局面に来ている気がする。