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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

何者 / 朝井リョウ

⭐️⭐️⭐️

  「桐島、部活やめるってよ」「死にがいを求めて生きているの」を読んで俄然朝井リョウに興味が湧いた。そこでまずはこの作品。

 

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから―。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて…。直木賞受賞作。 

 

  直木賞受賞作で映画にもなっており、買った文庫版のカバー表紙には6人の俳優の写真と一言説明、さらには相関関係が書いてあるというサービスぶり。なかなか秀逸だったので、引用してみる。

 

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文庫版表紙

 

拓人@冷静分析系男子 佐藤健

↓    片想い

瑞月@地道素直系女子 有村架純

↓     元カノ

光太郎@天真爛漫系男子 菅田将暉

↓    信頼

サワ先輩@達観先輩系男子 山田孝之

↓ ↑    見下す

隆良@空想クリエイター系男子 岡田将生

↓↑     同棲中

理香@意識高い系女子 二階堂ふみ

↓↑    見下す

拓人

 

  そして本編前の人物紹介はTwitterのアカウントと自己紹介文になっている。これもそれぞれの個性をうまく表現している。

 

  にのみやたくと@劇団プラネット @takutodesu

  コータロー! @kotaro_OVERMUSIC

  田名部瑞月  @mizukitanabe

  RICA KOBAYAKAWA  @rica_0927

  宮本隆良 @takayoshi_miyamoto

  烏丸ギンジ @acount_of_GINJI  (拓人の元演劇仲間、退学して演劇の道を選ぶ)

 

  このうち烏丸ギンジはほぼ拓人の回想の中でしか登場せず、残る5人が実質上の主人公である。冒頭光太郎の就活前のラストライブから始まり、この五人の関係がさっとデッサン風に紹介される。

 

  拓人+光太郎: ルームシェア

  理香+隆良: 1F上で同棲

  瑞月: 光太郎の元カノで同じく留学歴のある理香と友達。

 

  五人とも御山大学の学生で、光太郎のバンドOVERMUSICの解散ライブで楽しいキャンパスライフは終了、いよいよ就活を始めるところから約一年間が描かれる。

  なおサワ先輩は拓人のバイト先の先輩で、御山大学理系大学院在学、あと一年で推薦で就職できる状況。

 

  物語は終始拓人の目線で描かれ、それぞれのTwitterを随所に挟みながら就活の難しさ、進行具合、拓人から見た四人(+ギンジ)の客観的分析が綴られていく。

  ざっくり見ると、四人が協力しあって就活を頑張る様を批判的に隆良が見ているという図式だが、上記紹介文の様に「SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識」を拓人は見透かしている。

 

 光太郎:天然で人の懐へすっと入って行けるところは羨ましいが、初恋の人を探すために畑違いの出版業界を目指しているのはバカバカしいと思っている。

 瑞月:一方的に想いを寄せているが、なかなかうまく会話したりサポートしたりできないし、本人が自分のことをあまり語らないことにも拘泥がある。

 理香:留学・海外インターン・ボランティア・学祭実行委員等々の武器をあからさまに就活に活かそうとしているところ、名刺が風を着て歩いている様な様をバカにしている。

 隆良:実生活でもTwitterでも虚勢を張って就活をバカにしているが、実は自分もちゃっかり就活していて、しかも裏垢を持っていてそこで本音を吐露してストレス発散しているのが笑える。

 ギンジ:かつての仲間でありTwitterで演劇への強い思いを発信し続けているのを応援はしているが、学生演劇止まりだと掲示板で叩かれているのを見て安心している自分がいる。

 

  このあたりの機微を絶妙に描きつつ物語は終盤へ。瑞月の内定祝の際、虚勢を張る隆良を瑞月が糾弾してついに彼の驕慢な自尊心を打ち砕く。

 

  これで話が終わるはずはない。最後には拓人の番が回ってくる。彼を糾弾するのは一体誰なのか?拓人がこの長い語りの間ずっと隠していたものは何だったのか?

 

  「何者」かになりたいとあがく若者たちを描いて秀逸な作品であるし、五人の内面の闇のどれかは読む者の心にグサッと刺さってくるだろう。

  ただ、裏垢をそんなに簡単に人に知られるなんて脇が甘すぎ。それに叩きのめされた後の拓人の変化を描くエピローグ的な部分は朝井リョウにしては綺麗事すぎるな、とも感じた。

  最近アナザーストーリーの「何様」が文庫化されたのでそれも読んでみたい。