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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

おまけのこ / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️

   畠中恵しゃばけシリーズも第四巻。前作でそろそろ本格長編も読みたいと書いたが、残念ながら今回も短編集で5編おさめられている。残念ながらとは言ったが、畠中さん、手を替え品を替え楽しませてくれるので満足感は高い。

 

一人が寂しくて泣きますか?あの人に、あなたの素顔を見せられますか?心優しき若だんなと妖たちが思案を巡らす、ちょっと訳ありの難事件。「しゃばけ」シリーズ第4弾は、ますます味わい深く登場です。鼻つまみ者の哀しみが胸に迫る「こわい」、滑稽なまでの厚化粧をやめられない微妙な娘心を描く「畳紙」、鳴家の冒険が愛らしい表題作など全5編。(AMAZON解説)

 

では寸評。

 

こわい」  今回登場の妖は「狐者異(こわい)」。このこわい、本人がどう思っていようが関係なしに妄念と執着の塊で、人と交わらないのは勿論、妖からも嫌われており、さらには仏様にさえ厭われているという、恐ろしいといえば恐ろしい、哀しいといえば悲しい存在。そのこわいが居るだけで、若だんな一太郎の周囲の人々に災難が降りかかってくる。手代の大妖、佐助仁吉も口を酸っぱくして関わりを持つなと一太郎を諌めるが、あまりにも哀れに思った一太郎は最後にこの家に置いてやろうと決意する。さてその顛末は?

 

畳紙」  前作で予想した通り、妖が見える子供、於りんちゃんが再登場。ただ、今回の主人公は於りんちゃんではなく、お守り係のお雛さん。紅白粉問屋の娘さんで於りんちゃんの材木問屋の跡取り正三郎さんの許嫁。このお雛さん、ある理由で顔にすごい白塗りを施していて、妖でさえ「塗り壁」かと驚くほど。それをそろそろ止めるべきかどうか悩んでいて、ひょんなことから長崎家の付喪神屛風のぞきが相談に乗る羽目に。。。「こわい」と違ってほのぼの系、屛風のぞきとお雛さんの「夢の中」でのやり取りが笑わせ泣かせてほっこりする好編。

 

動く影」 今回の妖は「影女」。若だんな五つの春のお話しで、三春屋栄吉とかけがえのない友達になるきっかけとなった事件が語られる。中島みゆきの「五つの頃」と「ひとり遊び」の歌詞を彷彿とさせる、郷愁の一編。事件後、病弱なのに活躍の過ぎた一太郎を案じた長崎屋の先代夫婦は、見張りとお守りを兼ねて大妖の佐助仁吉を手代として雇うこととなる。

 

ありんすこく」 初めての廓噺。ありんすこくとは「ありんす国」のこと、ここでは吉原遊郭を指す。若だんな、父に連れられ初めて出かける。勿論、酒宴で遊んだだけなのだが、そのほとぼりも冷めないある朝、仁吉と佐助にいきなり「禿(かむろ)を一人足抜けさせる」と言い出したからさあ大変。手代二人は大妖だけあって若だんなにも父の当主にも遠慮がない、半ば脅迫して聞き出したその訳とは。。。ありんす国は病の国、遊女皆病を怖れている、そんな悲しい物語。

 

おまけのこ」  最後の表題作の主人公は、なんといつもは「その他大勢」扱いの妖、鳴家(やなり)の一匹。若だんなのいつも通りの名推理と並行して語られる、ある大事なものを守ろうとして長崎屋から放り出された鳴家の大冒険で笑わせてくれる。

 

  そして解説はなんと俳優の谷原章介さん。ネットの谷原書店など、本好きとは知っていたが、実に的確な評論で感心した。最後に谷原さんの一文を引用して終わりにしよう。

 

 世の中にはどうにもできないことがあると知る、そのリアリティー

 それでも一太郎は、あくまで優しいのです。時には自分の言葉が友達を傷つけたことに苦しみながら、そして時には周囲が注いでくれる愛情が自分を縛るように感じて戸惑いながら、やっぱり最後は「人の気持ち」の不思議に思いを馳せていくのです。

 絶対に温かい。でも、リアルだからほろ苦いー。「しゃばけ」の世界へ、ようこそ!