マイブック 2018年の記録
「ブクレコ」や「本が好き!」でやっていた年末恒例行事、その年の読書総括である。今年はこちらですることにした。
2018/12/20現在、公開レビューが111本、下書き中が9本ある。下書きからはおそらく選ぶことはないと思うので、この時点で思いつくままに選んでみた。
全く迷うことなく選んだ最高の作品。今年は佐藤亜紀の作品を読めたことが最大の収穫であった。ただ、佐藤亜紀は文章至上主義でそれを濁らせる一切の余計な説明をしないなので、それを知らない人がいきなりこの作品を読むべきではないだろう。「バルタザールの遍歴」から順に読んで西欧史を学びつつ、ここまで至るのが良いと思う。少なくとも「バルタザール」「天使」「1809」「ミノタウロス」を読んでから挑んでほしい。
川上弘美といえば、提督もお勧めの「センセイの鞄」が最も有名だが、しばらく追ってみてこの「真鶴」に行きあたり、底なし沼に引きずり込まれるように作品世界の中に惹き込まれてしまった。読後しばらくは呆然としたし、今でもずっと引きずっている。それほどの力と暗い魅力のある作品である。
洋書 ベスト1: The Crossing Cormac McCarthy
今年初めの目標として彼のBorder Trilogyを読むことを挙げていた。何とか読破したが、予想以上にハードだった。そして彼の真価を知ることができた。
その三部作の中でもとりわけ長大重厚で内容の濃いのがこの「The Crossing」である。次点が第一作「All The Pretty Horses」、三作目の「Cities Of The Plain」はやや読者サービス的なところがないでもないが、それでも本年読んだ洋書の中ではこの三作品が飛び抜けていた。
当然萩尾望都と言いたいところだが、インパクトの強かったホノボノ系ギャグ漫画「ふうらい姉妹」を選んだ。あかつき姐さんのレビューの「いでんこのなせるわざよ」にビビッときたのだが、正解だった。
ずっと読みたいと思っていた伊藤計劃にようやく手を付けた。処女長編「虐殺器官」もすごかったが、「ハーモニー」の完成度には舌を巻いた。余命が限られていたなかで執筆活動を始めたとはいえ、まことに惜しい才能である。
ベストライトノベル: なんて素敵にジャパネスク2 氷室冴子
これも夭逝の作家氷室冴子。今年は没後十年に当たるそうで、あかつき姐さんのお勧め。第一巻から笑わせてくれてほろりとさせて平安時代の雰囲気を味わって、この第二巻の最終章でまことに見事なエンディング。感嘆した。
ベストミステリー&ファンタジー: 沙門空海唐の国にて鬼と宴す 全四巻 夢枕獏
映画を観てややガッカリで、夢枕獏先生の原作がこんなにつまらないはずがない、と読み始めてはまった。さすが獏先生である。ご本人も「ド傑作を書いてしまった」と自画自賛。
続いては、セミンゴの会恒例、読む方はこちらの方が面白いであろうネガティブ方面。
私が必ず新刊を買う作家はそう多くない。高村薫、W村上(もうハルキは買わない)、伊坂幸太郎、Paul Auster、Kazuo Ishiguro、そしてこのモリミンあたり。そのモリミンの待望の新刊「熱帯」は、ウェブサイト連載途中でモリミンがダウンしたため日の目を見ることはないだろうと思われていた作品だっただけに嬉しかったが、新たに書き下された後半がなんじゃこりゃ状態で残念至極。「我ながら呆れるような怪作である」、言うてる場合か!
浅田次郎先生の「蒼穹の昴」は日本文学史に残る傑作だったと思う。ところが龍玉シリーズとなった「中原の虹」四巻、「マンチュリアンリポート」と話が進むにつれてどんどん質が落ちていった。この「天子蒙塵」シリーズ全四巻も浅田節だけが健在で、ストーリー自体がつまらないこと甚だしい。敢えて山場を挙げるとすれば、第二巻の馬占山の反抗「還我山河」事件あたりのみ。おそらく今後も西安事件~中華人民共和国建国あたりまで続くのだろうが、つなぎで四巻は長過ぎないか?
いよいよワーストワン。本が好き!の「#はじめての海外文学 vol.3応援読書会」の掉尾を飾ったレビューであるが、言い換えれば誰も怖くて手を出せなかったゲテモノ。予想通りネット弁慶のマスターベーション的ファッキン・クレイジーな小説であった。それと知って読めば意外に面白いかも。
あ、最後にもう一つ。
立つ鳥跡を濁したで賞: 最後の物たちの国で ポール・オースター
大見得を切って「本が好き!」にバイバイしたレビュー。実質上ヤーチャイカ一派批判だっただけに、Twitterでヤーチャイカさんの怒ること怒ること。この件については今更何を言うつもりもないが、とりあえず立つ鳥思いっきり跡を濁した記念碑的レビューではあった。
というわけで来年もボチボチとこのブログで読書レビューは続くのだろう。多分。