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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

偶然の祝福 / 小川洋子

⭐️⭐️⭐️

  いやあ、これは驚いた。例えばポール・オースターなんか自分の作品に過去の自作の主要人物を登場させることを得意としているが、記憶に残るかぎり小川洋子ではそんな作品はなかった。

  ところがこの短編集には「バックストローク」「ホテル・アイリス」「貴婦人Aの蘇生」を明らかに意識している作品があるし、暗示的にだが「完璧な病室」「ミーナの行進」を彷彿とさせる描写もある。小川洋子ポストモダンといった趣。

  特に「盗作」という作品を読んだ時は「また二度買いしちゃったか!」と焦ったくらいだ。自分の「バックストローク」を実は盗作です、と言い切るフィクションの凄み、それを平然と書く小川洋子さんにはもう降参。

 

  そんな中で、他の作品の主人公小説家の子どもの頃の話かなと思わせる「キリコさんの失敗」と、愛犬アポロの病気にひたすら戸惑う「涙腺水晶結石症」は比較的ホノボノとした、安心して読めるいい話。

 

  最後に唐突に時計工場が出てくる「時計工場」だけは分かりにくい話だが、一作目の「失踪者たちの王国」から、貴婦人Aが出てくる「蘇生」まで、「失ったものへの愛と祈り(裏解説より)」に溢れた短編集である。そこはやはり小川洋子だ。

 

  解説が川上弘美、というのも嬉しい。

 

  

『お手伝いのキリコさんは私のなくしものを取り戻す名人だった。それも息を荒らげず、恩着せがましくもなくすっと―。伯母は、実に従順で正統的な失踪者になった。前ぶれもなく理由もなくきっぱりと―。リコーダー、万年筆、弟、伯母、そして恋人―失ったものへの愛と祈りが、哀しみを貫き、偶然の幸せを連れてきた。息子と犬のアポロと暮らす私の孤独な日々に。美しく、切なく運命のからくりが響き合う傑作連作小説。 (AMAZON解説より)』