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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

大盗禅師 / 司馬遼太郎

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    司馬遼太郎先生の作品は大体知っているつもりだが、先日本屋で司馬先生のコーナーを眺めていて、ふと目についたのがこの作品。この題名は見たことがない、未読は間違いない、ということで購入。

 

  解説によると、全集未収録の幻想歴史小説だそうで、昭和43年から翌年にかけて週刊文春に連載されたそうである。ちょうど新聞に「坂の上の雲」を連載していた時期にと重なっていて、膨大な日露戦争の資料を読み解きながらの連載と精神の均衡をとるためにももう一つの持ち味であった幻想歴史小説を書くことが必要だったのだろう、と解説者は述べている。

 

  「由比正雪の乱」と「国姓爺合戦」が同時代に起こっていることに目をつけ、うまく結びつけた司馬先生の発想とそれを組み立てていく筆力はさすがで、虚実ないまぜの登場人物の多さも今回の特徴。特に、二つの事件を結びつける鍵となる、主人公を翻弄する両性具有の謎の人物蘇一官が魅力的ではある。

 

  とは言え、さすがにちょっと話が散漫になってしまっている感は否めないし、両方の事件とも尻切れトンボで終わってしまい、終わり方もやや唐突である。

  また、この作品中で「徳川のための閉鎖的日本」が嫌いなことを先生ご自身隠しもされていないので、全集にあえて入れなかったのもむべなるかな、という気がする。

 

  それでも面白いし、高橋克彦氏の寄稿は一読の価値あり。

 

 なにが善で、なにが悪か。

 今の若者の多くは仙八の立場にありながら、仙八のように迷いつつ道を求めていない。見て、学ぶことの大事さを司馬先生は教えている。(高橋克彦

 

 

 

『大坂落城から三十年。摂津住吉の浦で独自の兵法を磨く浦安仙八の前に、ひとりの僧が現れる。妖しの力をあやつる怪僧と、公儀に虐げられる浪人の集団が、徳川幕府の転覆と明帝国の再興を策して闇に暗躍する。これは夢か現か―全集未収録の幻想歴史小説が、三十年ぶりに文庫で復活。(AMAZON解説より)』